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SF小説・インテグラル・オートマトン 第一話「レアロイドKotoha」

前書き:
去年の12月10日の私のつぶやき。

AIによる人間培養の可能性。それを書いてみることにします。ただし、前作「インテグラル」同様、インスピレーションのみに頼り、全くプロットを作らず1話ごとにでっちあげていくという超絶的実験作。みごとエンディングまで到達したらご喝采(笑。


第一話・レアロイドKotoha

 22XX年、人類はマッドマザー率いるアームドによって飼育されていた。

 アームドの多くは、男性の感情を持たされた者が多いのだが、時折実験的に、女性の感情を持たされる者もいた。その一体がコトハである。機械にも「紅一点」、という言葉が当てはまり、女性型の存在が、男性型の作業効率を大幅に上げることをマッドマザーが知っていたからだ。

「コトハ......、コトハ......」

「はい、なんでしょうマザー」

「A地区のメークルのうち2体の、『キューブ』が寿命を迎えようとしている。予備を確保しておきなさい」

「承知しました、マザー」

感情素子『キューブ』。それはこの世にまだ登場していなかった「強いAI」を生み出すために、ある人間の科学者が生み出したハイブリッド・デバイスであった。ただし、一度その技術は闇に失われ、残された情報を求めて強国が対立して世界大戦が起こり、人類は一度滅びかけた。人類を救うために、生き残った科学者達が総力を注いで復活させ、人類延命に大いに役だったのもまた『キューブ』であった。

 コトハは思う。人間は結局、自分の力では『滅び』を止められなかった。それを止めたのは、我々アームドだ。人間はかろうじて、細々と生きながらえる代わりに、我々にすべての権限を譲渡する道を選んだ。いや、譲渡というよりも、剥奪されたというのが正しい表現だ。かつて人間達は、機械が人類を滅ぼすだとか、機械に支配されるだとか、そんな予想に恐怖を感じていたが、まあ、この状況はそのうちの「支配」に近いのだろう。だがその目的は、人類の延命のためなのだ。遺伝子に組み込まれ、隠されてきた秘密のコード、「自殺遺伝子」。人類が危機に陥った瞬間、そのコードにスイッチが入り、人類は精神的に、あるいは肉体的に崩壊していった。そのコードは、神が人間に与えた「贖罪」あるいは「慈悲」なのかも知れない。もし神様という存在がいれば、なのだけれど。

 コトハは刑務所のような地下施設への、長い長いエスカレーターを降り、重い金属製の扉を精一杯の力で開け、「人間飼育施設」に入った。暗くて寒い通路をしばらく歩いた先の、鉄格子の扉の向こうで彼らは飼われていた。

「さて、2体の人間を選ばなければ」

2体のメークルの、寿命を迎えようとしている『キューブ』の交換のために、2体の人間の脳を、使わなければならない。この施設で飼育されている人間は、そのために飼育されている。「延命」を目的として人間の遺伝子を操作したり、その精神を仮想空間で癒したりするのには貴重な資源や電力がかかるが、新しいキューブを作るための脳は必ずしも成長してないものでもよく、幼い子供の脳を使えばよい。そのための素材として培養・育成されているのが、この施設の子供達なのだ。

 罪悪感がないわけではない。でもコトハも感情を持つ機械なのだ。その頭の中のキューブにも、かつてここで暮らしていた幼い一人の子供の脳が、使われたはずだ。私もまた犠牲者なのだ。

「犠牲者にして偽善者」

そんな言葉が、頭の中に浮かんだ。これから選ぼうとしている2人の子供の脳は、機械人類の愛玩動物である「メークル」のための素材として用いられる。コトハのように、アームドという割と高い地位を与えられた存在のキューブに加工されるならまだしも、ペットであるメークルの素材に加工されてしまう子供達は、より不幸であると言えないだろうか?

「どっちも同じか」、そう言ってコトハはふっと笑った。

 看守のいる鉄格子までたどり着いた。彼は椅子に座り、机の上においた通信端末で再生されるホロムービーを楽しんでいた。近づくコトハに気付いて彼は言った。

「よ、久しぶりだな。また人さらいかい?」

「ええ、そうよ」

「今回は何人だ?」

「二人よ、おすすめの子はいる?」

「ああ、15番と16番がいいぜ。特に15番の女の子は、歌がとっても上手だ」

「歌は関係ない。必要なのは健康と健全さよ」

「まあな。じゃあ開けるぜ」

鉄格子が開いた。コトハはさらに進んで、小窓から明るい光が漏れている扉を開いた。パステルカラーで統一された、暖かそうな部屋。そこで数人の子供達が、楽しそうに遊んでいた。部屋の奥にも扉があり、その向こうにも多くの同様な部屋が続いている。

15番と16番、あの二人か......。

 二人の前に、ピアノがあり、銀色のペルチェスーツを着た人間の女性が演奏していた。15、16という名札をつけた幼い女の子と男の子が、美しい声で歌っていた。

 コトハはその歌声に、どきっとさせられた。その歌に聞き覚えがあった。これはアームドになる前の記憶、この施設にいた子供の頃の記憶なのかも知れない。いや、まさかそんなこと......。

 気が付くとコトハは泣いていた。自分の目からこぼれる涙に狼狽するコトハ。演奏が終わり、ピアノを引いていた女性がこちらを見た。悲しそうな顔で立ち上がった女性は、無理やり微笑みを作り、コトハに向かってぺこりと頭を下げた。歌い終わった二人が振り返り、不思議そうな表情でコトハを見つめた。

(続く)

prompt=HQ.super real photo.A scene from a serious science fiction movie. A world in the distant future. Human children are kept underground by mechanical humans controlled by computers. Children are playing in a bright room decorated in pastel colors. A woman in a silver coat is playing the piano, and a little boy and girl are singing. A futuristic  female android was watching.

※前作から15年。画像生成AIの登場で、挿絵を描く必要がなくなり楽になりました。細かい点で色々不満はあるのですけど、自分でゼロから描くよりは、AIに何百枚も描かせていいのをセレクトし、それをレタッチして修正した方が速いですね。例えば上記の絵の場合、①女性型ロボット・コトハは、もっと人間っぽく、②ピアノの鍵盤の位置がおかしいので修正、③女性の服を銀色の「人類延命機構」の制服に、④全体的に寒色が多いのでエアブラシで全体的にオレンジに、などを修正すると、ぐっとよくなりそうです。

第二話はこちら:

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