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「クラブの楽しさ」って音楽だけ?10年前を思い出した瞬間

私は10年前、20歳の大学生だった。

14歳から一人で磨き続けてきたDJの技術には絶大な自信があったが、初めて人前で披露した際は惜しみなく、本領を発揮したにも関わらず、「オープンなのに上げすぎじゃない?」の一言で一蹴されてしまった。

不服だった。

だがピークタイムにプレイしていたDJは、しっかりとお客さんの心を掴んで盛り上げていた。その瞬間を目撃した。

音楽に対する楽天的な姿勢は変わり、どうやったらDJが上手になれるのだろう、と主催者にアドバイスを受けた。

「たくさんパーティーに遊びに行った方がいいよ」

そう言われてから、学業そっちのけでクラブに足を運んだ。

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当時の各クラブは、月間スケジュールのフライヤーを配っていた。

平日も毎日のようにパーティーが開催されており、大学の講義中はそのフライヤーを眺め、どのパーティーに行こうか悩んでいた。

SNSで知り合いが告知宣伝していたパーティーや、クラブでみんなの話題になっていたパーティーなど、できるだけ参加するようにしていた。

いざクラブに到着したら、まずはエントランスでお金を払って入場し、バーカウンターでレッドブルを注文する。

あとはひたすら踊っていた。踊りながら考えていた。

なんでこの曲に繋いだんだろう、周りの反応はどうなんだろうか、知らないミックスのパターンがあったら帰ってから練習できるよう、頭の中で繰り返し再生しながら帰った。

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ダンスフロアで必死に勉強していた最中、いつも目に入ってくる人がいた。

バーカウンターで爆笑している、ちょっと怖そうなクラブ上級者の大人たちだった。

普段何しているのかわからない、ストリートカルチャー独特のファッションに身を包み、クラブスタッフとも仲が良く、通りかかる人ほとんどに挨拶されていて、何もかも知っていそうな雰囲気。

話しかけたことも、周りにあれ誰ですか、と話題に挙げることもなかったが、よく覚えている。

フロアで踊るわけでもなく、バーカウンターの前でお酒を飲み、人望のある立ち振る舞いをして、めちゃくちゃ笑っていて楽しそうだったのだ。

自分にはしていない経験をしていそうで、羨ましくてカッコよかった。

だからよく覚えていた。

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そんな時代から10年経った現在、いつものクラブになんとなく遊びに行ったとき、私と同い年のDJがバーカウンターにいた。

バーカウンターの向こう側には同じく同い年のクラブ店長。

私が現場でDJを始めたての頃、仙台のクラブシーンで大いに活躍していた二人である。

我々がやっていたハードコアというアンダーグラウンドすぎる音楽に対し、エレクトロ全盛の時代にイケイケのクルーで活動していた二人だったため劣等感が凄まじかった(ハードコアという人種はそういう状況に燃えるのである)が、同世代が長らく頑張っている姿にお互い励まされていたのであろう。

今ではもうすっかり30代のぬるま湯に浸かり、ライバルというよりも戦友の感覚で、何をするにもつい気を許してしまう。

「ジャンケンテキーラやりますか!」

そう言われ、流れに飲まれてしまった。

ジャンケンで負けた人がテキーラを飲むという、シンプルで公平かつ誰もが賑やかになり、倒れる寸前の奇行まで楽しめる画期的な遊びである。

クラブ以外でやれば100%迷惑がかかるが、人の少ない深めの時間帯を狙えばある程度は安心である。

ショットを傾ける回数を重ねるほど叫んだり飛び跳ねたり、集中力とアルコールがせめぎ合う中、飲めば普通に限界が来るため、その辺にいる後輩を捕まえて母数を増やしてリスクを減らす作戦をしたりと、だんだんと人数が増えて笑い声も大きくなる。

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倒れている人間を横目にクラブを出ると、朝日が昇っている。

カラスとゴミ収集車、疲れた顔して歩く金髪の姉ちゃん。

10年間ずっと同じ光景である。

このときに、「昔見た、いつもバーカンの前にいた人ってこんな感じで遊んでたのかな」と、ふと思った。

いつの間にかオレもそっち側にいたのかあ。

嬉しいやら恥ずかしいやら、複雑な感情が込み上げて来たが、胃の不快感には勝てなかった。

翌日の二日酔いを心配しながら朝の繁華街からさっさと逃げた。

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お知らせ

SAVE THE SHAFT 二度目の存続支援のお願い - クラウドファンディングCAMPFIRE https://camp-fire.jp/projects/view/484559

私が最も愛しているCLUB SHAFTのクラファンです。

音楽が鳴る場所でなんとなく目に入って来るような情報が、作品のインスピレーションのカギになったりします。

クラブがなくなれば、そういったもの自体もなくなるということです。

「ラッコが消えれば海が死ぬ」と同じく、音楽が生まれる現場も独自の生態系があり、それで保っていると思っています。

興味があれば、ぜひリンク先をクリックして詳細をご覧になってみてください。

SAVE THE SHAFT 二度目の存続支援のお願い - クラウドファンディングCAMPFIRE https://camp-fire.jp/projects/view/484559
(2021年9月12日 23:59まで)

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