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ハッピーハードコアの進化、90年代から現代までの20年を3種類のEye Openerで辿る

皆さんこんにちは。コンポーザー・DJとして活動しているDJ GENです。
本日は、ハッピーハードコアの中でも、「サウンドの変貌」について焦点を置き、手短に解説したいと思います。


どのように変貌を遂げたのか

ドラッグカルチャーと近縁かつ深みのないバカな子供の音楽、として煙たがられていたにもかかわらず、フェスやhyperpopなどの影響で、昨今の音楽市場で注目されている音楽「ハッピーハードコア」ですが、どのようにして変貌を遂げ、今の形があるのでしょうか?
ハッピーハードコア史上歴史的名曲「DJ Brisk & Trixxy – Eye Opener」を使って簡単に解説していきます。
まずはオリジナルバージョンを聴いてみましょう。

1997年 「DJ Brisk & Trixxy - Eye Opener」

1996−97年、UKではハッピーハードコアのレコードが大量にリリースされました。後世に語られるような定番曲の半分以上が、このわずか2年間のうちに発表されています。
この頃のサウンドの特徴として、以下が挙げられます。


1. 速さが170BPM前後以上である
2. ブレイクビーツが多用される
3. 裏打ちに「スタブ」と呼ばれるサンプルが使われる
4. セクション終わりで1−2、1−2−3−4とクラッシュシンバルが鳴る

1については、そもそもこの時代のハッピーハードコアは既に進化した状態であることを表しています。1995年付近では160BPM、1990-93年前後では140BPMほどでした。1995年以前の曲は、日本では「OLD SKOOL」と呼ばれ、ドラムはブレイクビーツが主体であり、ドンドンドンドン、と1小節に4回キックドラムの鳴るハッピーハードコアとは明確にサウンドが異なるため、区別されています。
2は前述した通り、前世の名残です。イントロを聴くとよくわかりますね。また、ドラムに関して、Eye Openerはタイトなキックが使用されておりますが、90年代のハッピーハードコア全体を見回すと、よりコシの強いハウスキック、歪み系エフェクトを使用したガバキックのような音を使った曲の方が多いです。(鳴らす場所が大規模になればなるほど、「ドン」という音よりも「カッ」「コッ」と短く速いキックが使われる所感です)
3はこの年代の音を決定づける要素であり、4は現代のダンスミュージックでいう「ビルドアップ」がセクションごとの終盤に入ってきます。スネアのロールも多用されます。

2009年 「Re-Con - Open Gods Eyes」

2005年前後から、より迫力のある、「UK HARDCORE」と呼ばれるサウンドに変貌しました。1997年から2005年まで開きがありますが、この間はダンスミュージック全体の動きとして「TRANCE」が流行し、ハードコア音楽の分野では「TRANCE CORE」「FREEFORM HARDCORE」が誕生していく時代で、その音楽のグルーヴ感に影響を受けて誕生したと考えられます。
「ハッピーハードコアは一度死んだ」と語られることがありますが、確かに2000年初頭から2005年前後まで、過去の系譜を感じる楽曲リリース量は絶望的な数です。アメリカ同時多発テロの発生など、世界的にシリアスな雰囲気であり、楽曲もそういったものに相応しい、冷淡なものが多く出回りました。
この時代サウンドは、次の特徴があります。

  1. 速さは170-175BPM

  2. とにかく強く迫力があるキックとベース

  3. 2拍目と4拍目を強調するスネアドラム

1については、170BPM以下でリリースされる楽曲はほとんどなくなりました(少ないですが、あることにはあります)。ちょうどこの年代からCDJ(CDでDJする機材、以前はレコードでしかDJできなかったためお金がかかった)の普及がグッと広まって、DJ人口自体が増加した傾向があります。DJで使いやすいようにBPMを統一した作り手側の配慮かもしれません。
2は世界的な流行でした。当時流行していた「ELECTRO」と呼ばれるジャンルを構成するサウンドが、とにかく音を圧縮して迫力を出す手法です。ダンスミュージック以外でも、音楽シーン全体として、いかに音圧を稼ぐかを優先する「音圧戦争」という言葉がコンポーザー同士の間で飛び交いました。2009年は、エレクトロを代表するアンセムdeadmau5 – Ghosts 'N' Stuff」がリリースされた年ですので、手法としても既に成熟していたことが予想できます。
3についても、2と同様の理由です。エレクトロの登場でより顕著になりましたが、元来ダンスミュージックは2拍目と4拍目を強調する傾向があります。余談ですが、狩猟民族の弓を優しく引く→思い切り放つ、のリズムが由来という説があります。一説によると、農耕民族は畑にクワを思い切り入れる→優しく引くのリズムがあるので、1拍目3拍目が強調されるハーヨイショ・ハードッコイなグルーヴが形成されたと言われています。

2019年 Brisk & Trixxy - Eye Opener (Skeets Remix)

「UK HARDCORE」と呼ばれていた時代から10年後、再び「HAPPY HARDCORE」という呼称がたびたび使われるようになりました。この時代のサウンドの呼び方は認知によって異なります。RAVEカルチャーを追いかけてきた人にとっては、90年代のHAPPY HARDCOREの音ではなく、どちらかといえば「UK HARDCORE」ですし、それ以外、フェスなどで知った人は2000年代のUK HARDCOREのサウンドとは微妙に異なるため「HAPPY HARDCORE」と呼びます。どちらも正解です。
この時代のサウンドは以下の特徴があります。

  1. 曲の速さは160-170BPMである

  2. タイトなキック短いベース

  3. DUBSTEPFUTUREBASSなどのセクション採用

    1については、当初はEDMという音楽が登場し、ウルトラやコーチェラなど、大型EDMフェスの流行が始まりました。その催しの中で、EDMより速く激しく重さのあるサウンドで人気を博し、定番の域まで辿り着いた音楽が「HARDSTYLE」その流れでスピード感のある真新しいサウンドとして歓迎されたのが「HAPPY HARDCORE」です。そのためこの速度帯になったと考えるのが定説です。
    2については厳密に断言できるような要素ではありませんが、音楽を聴く環境が大型化すると、一般的な裏打ちを含む4beatのグルーヴはタイトに、大きな空間で響いたとき正しく聞こえやすくする傾向があるように感じます。シンセサイザー新製品による流行のサウンドかもしれませんし、リスナー側の趣向かもしれません。
    3は新しいもの好きのハードコアクリエイターあるあるの手法でして、昔から、流行のサウンドはとにかく吸収していきます。90年代ではビートルズや映画ネタなど、ブートもののリリースはもちろん、ドラムンベースのセクションが多く取り入れられ、2000年代では引き続きドラムンベース帯はもちろん、ジャンプスタイル・ハードスタイルのノリを取り入れたセクションを設けた楽曲がたくさんありました。

HARDCOREは常に進化するもの

いかがでしたでしょうか?
3曲を聴き比べてみると、ハッピーハードコアは時代と共に変化していったことがよくわかると思います。
「HAPPY HARDCOREとUK HARDCOREの違い」を気にするリスナーさんを頻繁にお見かけしますが、おおよそ多くのハードコアコンポーザーやハードコアDJは、自分が理想とするサウンドは個々で異なるものを掲げています。
大きなジャンルとして括り、音を比較した気持ちもわかりますが、どんな年代でどんな体験をして、どういった経験のもとで現在のクリエイター活動をしているのか、アーティスト単体の目線で音楽を追いかけるのも楽しいと思いますよ。

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ではまたお会いしましょう✋


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