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君は「その研」を(頭から尻尾まで)観たことがあるか?~園田賢試論~

わたしは、無い。
高度情報化された社会をサバイブするわれわれは常に忙しい。映画もドラマも飛ばし見する。バラエティもYouTubeも倍速だ。時間がない。とにかく時間が。
問題なのは、爆発的に増大し、いまも指数関数的に増え続けているコンテンツ側の方だろう。選び放題で見放題で、自由がゆえに不自由だという、言い尽くされた、あれ。

その研-園田賢の麻雀研究所-。

その研のYouTubeのバーを見よ。
あらかじめ予告された総時間の数の並びに畏怖せよ。
3時間42分。
5時間1分。
コジマ店員の徹夜ゲーム実況か。

わたしは、われわれは、ただひたすらに忙しいというのに。
まずMリーグや最高位戦の検討配信の場合、導入までが長いし、一局一局なんて当然、だいたい一打一打検討しやがる。
15分程度のコンパクトな他のコンテンツはどうか。確かに脳トレは面白い。しかし、導入の小芝居が冗長でくだらない。体感、長いのである。

Mリーグのインタビューにおいても、その話の長さ、身振り手振りの挙動が、うざがられつつも、愛されている氏のことだ。時間に制限のない自身のチャンネルで、長くならないわけがない。
ちなみに、雪原の求道者こと萩原聖人氏とそのけんとは、その挙動においてそっくりだ。
野生爆弾のロッシーが一卵性なら、ハギーは二卵性だろう。両者とは、レヴィ=ストロース的な家族的類似性が顕著なのである。

だが、その研は滅法面白い。
実は。
雀力向上のために有用なのは間違いない。
なにせ、あの麻雀研究の鬼、多井隆晴が、ここまで考えてないかも、、と弱音を吐き、認めているくらいなのだ。

プロテスト解法の動画や、手牌読み・捨て牌・鳴き読みの動画は非常にためになるし、頭の体操的なアメリカ横断ウルトラ麻雀クイズ(なんてタイトルだ)など、小芝居を飛ばして全て見ればいい。楽しい。
彩図社刊『魔術の麻雀』では、期待値の考え方からはじまり、園田賢という学歴も職歴も申し分ない、日本トップクラスの頭脳が考える麻雀のゲーム性、つまりは真理を、やはり長々と開陳している。開チン。

われわれアマチュアは、プロの思考や読みの奥深さに触れて、やはり畏怖するより他にない。

深くて長くて、煙草も吸うしビールも呑むし助手の聡ちゃんの合いの手が話の拡散を助長するしで、一局あたり何時間もかかる。一打に30分かける始末なのだ。半荘だと5時間かけ兼ねない。
だが、これは正しい態度なのだ。
どういうことか。

作家であり且つ一流の文芸批評家でもある高橋源一郎氏は、ある小説を批評しようとすると、その小説の何倍もの分量を要す、ということを言っている(大意)。
氏は、まず対象の小説を全文引用する必要があるのだという。そのうえで、批評の言葉を書き連ねていくのだから、元の小説の倍以上に言葉を費やす必要が生まれるのは当然なのだ。書かれた小説を要約や抜粋などして論じた気になろうなど、批評家の暴力、蛮行ではないか、というわけだ。

麻雀も倣うべきだろう。
その実践者が、他ならぬその研のそのけんなのだ。

園田賢は批評家である。
批評家は、芸術的志向を抱く。時に彼は、美学的な見地から牌譜を読み解くこともある。
親の園田の切り出しからそのスピード感を察知した対局相手の3人は、即応し、重なる前に切らんとばかりに一斉に字牌を打ちだす。わずか2巡で全ての字牌処理を完了された園田は嬉しそうに、
「これ、芸術じゃない?!」
とビールを旨そうに呷るのだ。
ことばのやりとりが禁じられている麻雀では、牌だけで語ったりねだったり問いかけたりせねばならない。だからこそ「リーチ」ということばとして発せられる宣言が異端性を帯び、チートのような効力を発揮するのだがそれはまた別の話。

そう。そのけんほどの一流の批評家ともなれば、芸術作品としての一局をつまみに、何杯でもいく。いけちゃうのだ。
ちなみに、元Mリーガーの前原雄大は、母親が趣味で牌譜を読んでいたと自室の本棚に並んだ膨大な牌譜を前に述懐していた。

前原御大の、御母堂
趣味:
牌譜を読むこと

「熱闘!Mリーグ」における、あるコーナーでのこの驚愕の証言に、わたしは失笑したあと、少し涙した。
その精神はいま、なぜか最高位戦所属のプロの幾人かに受け継がれているはずだ。
その筆頭候補代理のひとりが園田賢に他ならない。
Mリーグ発足当時のドラフトで、一般的には無名だった園田が、誰よりも早くその名を呼ばれた。麻雀賢者。卓上の魔術師。

では、ここで1つの疑問が沸く。
園田の獲得タイトルは?
Mリーグ4年の通算成績は?

敢えて記さずにおこう。
だが、なぜか勝てない。
なぜか勝てないのだと言えば、その悲劇の度合いは知れるはずだ。
心ない人は、口々に言った(主にコメランズとM速まとめ民)。

園田は、うまいが、弱い
やんちゃするな
なんなん

と。
では、本当にそのけんは弱いのだろうか。
そんなわきゃーない。
強い。強いよ。
そんなことは、園田賢の最高位戦A1リーグにおける通算成績を一瞥すれば幼児でも分かることだ。

Mリーガー最強論争というものがある。
現時点では、多井と堀が双璧というのが多数の意見だろう。
それに続くのが、機械化された打ち手、小林剛と佐々木寿人で、これについてはいずれ論じる。
さらにネクスト枠に、白鳥・伊達らが控えているというのがわたしの見立てだ。

さて、ここで今一度、その研の正式名称を思い出しておこう。
園田賢の麻雀研究所
そう。そのけんは研究員である。博士なのだ。

最高位戦の麻雀バカ男(褒め言葉)を中心に、研究者タイプの打ち手はMリーグにも存在する。
だが残念なことに、彼らは最強論争に名前が挙がることはないだろう。
そこに、天才との壁がある。
なぜなら、研究者や批評家とは、天才の作品や思考を対象として、研究したり論じたりすることが主な仕事であり、生き甲斐であるからだ。

わたしは寡聞にもMリーグがはじまるまで、園田賢という男を知らなかった。地味だなという印象だった。灘高なのか、くらいだ。
だが、数年経った今はどうだ。
ロングインタビューをはじめ、すっかりキャラがついた。
賢者であり、魔術師であり、博士であり、批評家でもある、無冠の帝王。
キャラの大渋滞だ。
どうしてこうなった。 

いや、本稿の最初から最後まで、わたしは彼をディスってるのではない。
その研は面白い。見たほうがいい。誰か大事なとこだけ切り抜け。さすがに長すぎる。
そのけんは楽しい。良いキャラをしている。勝又に見逃し→山越しされてふった時の表情は、西を打ち込んだ内川の2段階ガッカリに次ぐ、Mリーグ顔芸大賞準グラだ。
園田賢はうまい。
とにかくその読みの深さと麻雀というゲーム性の理解は、さすが秀才の面目躍如だ。
では、彼は強いのか。Mリーガー最強クラスの一角なのか。
そうとは言えないだろう。残念だが。
わたしは応援している。
しかし、今のままでは、堀や黒沢の天才の後塵を拝す。本人も言う通り、噛ませ犬のモブになってしまう。
所属する赤坂ドリブンズと共に、来期は勝負の年だろう。注目している。

次回予告:

やんちゃな仔猫事件という忌まわしき黒歴史



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