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メットライブビューイング ロメオとジュリエットを観て

 映画化もされ、誰もが知っている「ロミオとジュリエット」 私はフランス語のオペラを始めてみた。前半部分はジュリエットとロメオの二重唱が多く、2人の出会いの喜びが表現される。主役2人へのインタビューの中でも語られていたが、二重唱は2人の間で、化学反応が起こり、表現が高まっていくとのこと。ロマンチックな場面が、フランス語の発音によってますます詩的にうたわれていく。
 いろいろな言語でオペラは歌われるが、細やかなニュアンスはフランス語が秀でていると私は個人的に思っている。

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 私とフランス語との出会いは小学校5年生の時。当時のフレンチポップスのスターだったミッシェル・ポルナレフの歌う「ラース家の舞踏会」 偶然TVで聴いてそのささやくような詩的な響きを初めて知った。日本でよく知られている曲は、今も時々CMで使われる『シェリーに口づけ』であろう。

『ラース家の舞踏会』彼女がフィアンセと踊るのを眺める 招かれざる客として

 ラース家の舞踏会はパイプオルガンが用いられ、暗く寂しい雰囲気が全体を覆っている。ポルナレフの曲の中でも、私は暗めの曲に心を奪われた。
 中学校に入学した時、隣の席の子がまりちゃん(その当時は、明るい天地真理が人気)の下敷きを笑顔で眺めていたので、自分の好きな音楽のことをわかってくれる人は同級生にいないだろうと思った。だから高校の時に好きだったクイーンのことは友人に話せても、ポルナレフの曲が好きだと言ったことは、今まで1度もなかった。
 〜エトランゼ〜[同じ空間にいても、何となく自分が馴染めない]この感覚は思春期の私にあり、彼の歌に共感していった。中一の時、テキストを買ってフランス語に挑戦したが、女性名詞、中性名詞、男性名詞もある。そういった文法の複雑さに頭を抱え、たった1ヵ月で断念した「憧れと容易に超えられない壁」を感じる言葉である。

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🎵 第一幕冒頭で歌われるジュリエットの喜びに溢れた歌

🎵ロメオ側の小姓 オペラにおいて、少年役をメゾソプラノが演じることが多い。昨年の『ばらの騎士』に代役で出た時から注目している歌手。所作も自然だ。

🎵ロメオ役のリハーサル映像がないので、過去の演奏会形式の映像を参考までに

 前半の甘美な音楽から一転し、後半は、重厚な合唱も加わり、劇的な表現になっていく。初めは冷静に判断していたロメオも、仲間を奪われた衝動的な怒りに囚われ、ジュリエットのいとこを殺してしまう。冷静さを欠いた振る舞いが、さらなる対立を生み、負のスパイラルに入ることになる。
 前半部分を見ていて、後悔にさいなまれるドラマチックな表現をロメオ役の歌手ができるのかと私は感じていた。なぜなら、彼の歌はとても繊細で、身体もほっそりしてるので、力強い表現の予想がつかなかったからだ。しかしある意味、それは大きく覆された。彼の思いが、ダイナミックな表現となっていて、そのギャップにやはりさすがだと思った。
 ジュリエットも前半の夢みる少女から、自分で決断をする力強さをもった女性へと変貌を遂げていくのが歌によってわかった。抗えない運命に翻弄される2人の気持ちが激しくもまた美しく表現されていて素敵な作品だった。

 ライブビューイングも残すところ、あと2作品。最後の『蝶々夫人』で歌われる『ある晴れた日に』をアスミック・グリゴリアンが予告編で歌ったとき、その第一声だけで胸をわしづかみにされた。彼女は今回の作品がメトロポリタンオペラのデビューになるそうだが、以前からヨーロッパで活躍している歌手である。彼女の声のエネルギーと、その思いが直接心に響いてきておもわず涙が溢れ、止まらなくなってしまった。
 今後もライブビューイングから目が離せない。


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