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ROASは最強の運用KPIか?

ROASという運用KPIが登場した背景

デジタルマーケティング領域において、最も頻繁に利用されるKPI(Key Performance Indicator)の一つとしてROAS(Return on Ad Spend)が挙げられます。ROASは広告費に対する収益の割合を示し、具体的には広告投資に対してどれだけのリターンが得られたかを示す指標です。ROASが100%を超える場合、広告投資が利益をもたらしていると判断されます。

同様に、マーケティングにおいては、LTV(Life Time Value)も重要な指標の一つと考えられています。LTVは顧客の生涯価値を表し、顧客がそのブランドやサービスに対して将来的にどれだけの価値を提供するかを計測します。この指標は、既存顧客の維持が新規顧客獲得よりも安価であるという前提で、企業は顧客の平均LTVを向上させることで収益性を高めることができるとされています。

ROASの概念が最初に現れたのは、2012年頃だと思われます。私はモバイルアプリゲームのマーケティング領域で活動している際に初めて耳にしました。それ以前は登録CPAをKPIに顧客獲得をすることが市場の主流でしたが、、顧客獲得後の課金に焦点を当て顧客単価だけでなく収益性も考慮することを促しました。

しかし、ROASとLTVは実質的には似ており、顧客の価値を評価する点で共通しています。ROASは広告投資に対するリターンを測定する一方で、LTVは顧客の生涯価値を評価します。このため、なぜROASが導入されたかについては、LTVがマーケティングの実践において十分活用できないと見なされたためと推測されます。

ここでは、LTVが実務運用上どこに問題があり、なぜROASが有用とみなされたのかを考えることで、ROASの適切な活用の方法について考えたいと思います。

LTVの計測なんて本当にできるのか?

LTV(Life Time Value)を実務上使いにくい理由として、まず計測期間を実際の生涯とすることが難しい点が挙げられます。事業の歴史が浅い場合や、特にデジタルマーケティングの分野では、顧客の生涯価値を正確に測定することは困難です。例えば、ECやゲーム、医療福祉系の人材紹介などの事業では、顧客の障害価値を計算するための実績データがないという意味で、現実的に計測は難しいといえます。

ただ、現実的なソリューションとして、LTVを生涯価値ではなく一定期間に区切って計算することは有効です。機関の決め方については事業や顧客の特性によって異なりますが、特定の期間における顧客の平均的な価値を算出することで、簡易的なLTVを計測することは可能です。


LTVの予測へのチャレンジ

デジタルマーケティングにおいてLTVが運用指標として活用されず、ROASが登場した背景には、LTVの予測性の難しさが影響していると考えられます。

そもそも、LTVというのは、獲得した顧客の一定期間における総支払額を人数で割った平均値で計算される。ただし、平均値に常に付きまとう問題であるが平均値はあくまで平均値であり、個々の顧客のLTVは異なると考えるべきである。

実際の事例として、楽天市場のマーケティング活動を挙げると、新規顧客の獲得にかかるCPAとその顧客のLTVとの関係性を把握することは非常に難しいといえます。例えば、広告媒体Aの登録CPAが高くて、広告媒体Bの登録CPAが低いとします。しかし、LTVをKPIとして運用する場合、必ずしも媒体Bに投資予算を増大させることが正しいとは限らない。なぜなら両媒体で獲得したユーザーのLTVの数字がわからないため、Bで顧客獲得をすることがLTVを最大化することにつながるとは限らないためです。その判断をするためには、媒体ごとのLTVを算出する必要ですが、その数値を知るためには、実績がたまるまで待つしかありません。しかし、それではマーケティングのPDCAを短期間で回せなくなります。このため、現実的に残された選択肢は媒体ごとのLTVを予測することになりますが、私も様々なトライをしてきましたが、現実的には非常に困難であることがわかっています。
LTVの予測性をする場合、予測モデルの構築のため実装には高度な統計手法やデータ解析技術が必要です。しかし、現在の技術水準では、特にデジタルマーケティングの分野において、このような高度な予測モデルを実現することは難しいのが、経験上の実態だと思います。

このように、LTVの予測性の難しさや、現在の技術水準による制約から、ROASが広告運用の主要な指標として活用されるようになったと考えられます。将来的には技術の進化やデータ解析手法の改善により、LTVの予測性が向上し、より多くの企業がLTVを活用する可能性もありますが、いまではないというのが正直な感想です。

ROASが前提としている条件とは?

ROASが登場した背景には、LTVを現実的に運用するためのアイディアが込められています。

まず、ROASの特徴として、予測の排除が挙げられます。ROASは実績のみで計測されます。広告で獲得した顧客が実際にいくら支払ったかを単純に計するだけです。これにより、広告効果の評価が比較的容易になります。また、多くの企業が利用している広告トラッキングツールを使用すれば、ほぼ誰でも正確な計測が可能です。

次に、ROASが前提としている概念として、顧客獲得から早期に多く支払うユーザーが、トータルで支払額も大きくなるという考え方があります。こんな定義はどこにも書いてありませんが、そうでないとROASを前提にした運用はロジカルではないということになってしまいます。

ROAS運用は非常に有用な手法ですが、その前提条件が自社で許容できるかどうかを検討することが重要です。例えば、転職サービスのようなビジネスでは、早期に転職する人から得られる手数料が必ずしも高いわけではないため、転換のスピードを重視した運用が売上の最大化につながらない可能性があります。

デジタルマーケティングの世界では常に新しいツールや手法が生まれますが、ROASは最近のヒット作の一つです。しかし、ROASを採用する際には、ROASが前提とする条件を理解したうえで、自社のビジネスに適したものであるかどうかを検討することが重要です。

一方で、LTVの予測モデルが完成すれば、あらゆるビジネスに活用できる究極のツールになる可能性があります。しかし、その実現には時間がかかる可能性があります。LTVが実現すれば、より効率的なマーケティング戦略を立てることができるでしょう。

【この文章は以下の文章のライトバージョンです。より詳細な議論はこちらでご確認ください】


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