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〈沼〉🗝

「うち転勤族なの〜、来月から栃木に単身赴任が決まっちゃって、また大変!!」

「高校生と中学生の男の子2人でしょ、ご主人が不在じゃそりゃ大変」

イケメン好きで有名だった。息子の通う体操教室のトレーナーにも相談のお礼の手紙から男性と関係を始めていて、男の人と会う約束で埋めつくされた夫不在の水曜日を眺める瞳からは魔性な色が放たれていた。

あっくんにも山田さんを通して、ご主人が転勤族な事と息子さんがもう大きい事から、夫の転勤先に着いて行くという選択はせずにいるけど、子供達には父性の足りなさと、体が大きくなってきている息子には力では敵わない事を心細さとして持っていると自身の不安を相談していた。

あっくんの父親の勤務先は警視庁でかなり上のポストにいた。幼い頃は厳格すぎる父が家にいても緊張ばかりで甘えた事がなかった事と、父親不在が日常で偶に帰宅するとおふくろが可哀想でならなかったと、ホテルで抱き合いながら話してくれた事を思い出せば、彼が彼女の息子さんの気持ちと、母親である彼女の寂しさは手に取るように想像がつくだろうと察した。

「もう〜、はまっちゃうよ」

廊下ですれ違いざまに2人は何か会話したようで、あっくんの背中越しに向かって今日も彼女の異質な発言が廊下に響いていた。

彼女は寄り添う共感力が強く
男性に自信を与えられた

彼は情に深く押しに弱く
女性を守りたかった




katz maneki🗝

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