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やったほうがいい仕事、増えすぎていませんか?

📖 文献情報 と 抄録和訳

成人のプライマリーケアに必要な時間の再検討

📕Porter, Justin, et al. "Revisiting the Time Needed to Provide Adult Primary Care." Journal of General Internal Medicine (2022): 1-9. https://doi.org/10.1007/s11606-022-07707-x
🔗 DOI, PubMed, Google Scholar 🌲MORE⤴ >>> Connected Papers
※ Connected Papersとは? >>> note.
🔑 Key points
🔹プライマリーケア(一次診療)を提供する総合診療医
🔹米国予防医学専門委員会のガイドラインに沿ったケア
🔹ガイドラインで推奨されるケアを提供するためには、1日あたり26.7時間必要
🌍 参考サイト >>> site.

[背景・目的] 多くの患者は、ガイドラインで推奨されている予防、慢性疾患、急性期医療を受けていない。その理由のひとつは、プライマリ・ケア提供者(PCP)がケアを提供する時間が十分でないことである。目的:全国的に代表的な成人患者を対象に,2020年の予防医療,慢性疾患医療,急性期医療をPCP単独で,あるいはチーム医療モデルの一環としてPCPが提供するために必要な時間を定量化すること。

[方法] 設計予防医療と慢性疾患医療のガイドラインを仮想の患者パネルに適用したシミュレーションスタディ。参加者:2017-2018 National Health and Nutrition Examination Surveyに基づく米国成人人口を代表する2500人の仮想患者パネル。主な測定方法PCPが仮想の患者パネルに対してガイドラインで推奨される予防、慢性疾患、急性期医療を提供するために必要な平均時間。訪問文書作成時間、電子受信箱管理時間についても推計を算出した。チーム医療を想定した場合の時間も再推定した。

[結果] PCPは、予防医療に14.1時間/日、慢性疾患医療に7.2時間/日、急性期医療に2.2時間/日、文書作成と受信トレイ管理に3.2時間/日の合計26.7時間を要すると推計された。チーム医療では、PCPは1日9.3時間(予防医療に2.0時間、慢性疾患医療に3.6時間、急性期医療に1.1時間、文書作成と受信トレイ管理に2.6時間)必要であると推定された。

スライド2

✅ 図. 米国の平均的な成人患者2500人のケアを提供するために必要なプライマリケア提供者の時間。

スライド3

✅ 図. チーム医療モデルにおいて、PCP以外のチームメンバーにシフトした追加予防医療時間。略語。RN:正看護師、LPN:准看護師、MA:医療助手。

[結論] PCPはガイドラインで推奨されているプライマリーケアを提供するのに十分な時間を有していない。チーム医療を行えば、必要な時間は半分以下になるが、それでもなお過剰である。

🌱 So What?:何が面白いと感じたか?

仕事には、やらなければならない仕事(基礎代謝)やったほうがいい仕事(活動代謝)がある。
やらなければならない仕事とは、現時点で報酬と直結している仕事である。
たとえば、理学療法士にとっては「患者を20分間治療して1単位分の報酬を得る」ことなどが該当する。
やったほうがいい仕事とは、報酬とは直結しないが質を上げるのに重要と思われる仕事である。
たとえば、「1日1時間勉強して患者により良い治療を提供できる自身の生長をつくる」ことなどが該当する。

さて、今回の論文が示したことは、医師を対象とした研究ではあったものの『やったほうがいい仕事が増えすぎているよね』ということ。
ガイドラインの推奨事項とは、ニアリーイコール活動代謝のことを指す。
そして、活動代謝では「人を雇えない」。そこに報酬が発生しない場合が多いから。当たり前のことである。
だから、1人の業務が飽和する。そういう事態になっているということ。
この事態は、理学療法士にも発生していると思う。
主に3つの観点から問題を捉えて、簡単だが解決策の可能性を提案してみる。

■ 専門性の観点からの問題
「それはあなたがやらなきゃならない仕事ですか?」
・あなたでないとできない仕事か、そうではないかという観点
・解決策①:自動化 → 文書作成などは電子カルテなどから自動作成する
・解決策②:アウトソーシング → 専門性の少ない文書作成は医療事務への委託する

■ 報酬の観点からの問題
「それは稼げる仕事ですか?」
・活動代謝は稼げないから、仕事ではないとされる観点
・だが、職員の生長→ひいては医療の質の向上には必須と思われる
・解決策:医療保険外の資金源を構築する(例. 研究助成金、有料勉強会を開催など)

■ 制度/情勢の観点からの問題
「それは、いまやらなきゃいけない仕事ですか?」
・働き方改革と密接に関連
・給与なしの勉強でも、仕事以外のことで職場に残りにくくなっている
・その中で「仕事=報酬発生する仕事」と定義されるなら、医療保険対象業務だけをやっていては、活動代謝は実質不可能となる
・解決策:自動化や資金源確保により基礎代謝を圧縮・委託し、業務時間内に活動代謝に着手できる自由時間を獲得する

突き詰めると、「仕事とはなんですか?」「医療とは何ですか?」ということが問われている。
「仕事とは、報酬(給与)の発生するものです」の定義からは、現時点では勉強・自己研鑽に時間を費やす人間は圧倒的少数派となるだろう。
「医療とは、ビジネスです」の定義からは、現時点では用事もないのにベッドサイドに行って、「調子はどうですか?、何かリハビリへの要望はありませんか?、お孫さんは・・・」とか、人間の心同士の交流に時間を費やす人間は、集団から叱責され疎まれる存在になるだろう。
緒方洪庵の『医戒』は、現代人のもつ医療の定義からは、逆行している部分が多い気がする。
だが、そちらの方にこそ、心の幹が揺り動かされ、自分が目指していた医療者の姿を垣間見る思いがするのは、どうしたことだろう。

一、医の世に生活するは人の為のみ、おのれがためにあらずということを其業の本旨とす。
一、病者に対しては唯病者を見るべし。
一、其術を行ふに当ては病者を以て正鵠とすべし。決して弓矢となすことなかれ。
一、学術を研精するの外、尚言行に意を用いて病者に信任せられんことを求むべし。
一、毎日夜間に方て更に昼間の病按を再考し、詳に筆記するを課定とすべし。
一、病者を訪ふは、疎漏の数診に足を労せんより、寧一診に心を労して細密ならんことを要す。
一、病者の費用少なからんことを思ふべし。
一、治療の商議は会同少なからんことを要す。
緒方洪庵『医戒』より一部抜粋

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