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九州の知財判例③ 特許権

大阪地裁令和3年5月13日判決(平成30年(ワ)8708号)

原告は、コンクリート製品を製造販売する中部地方の会社で、側溝製品に関する特許をもっていました。
被告は、コンクリートブロックの製造販売、土木業を行う九州地方の会社です。

原告の特許は権利期間が終わっていましたが、権利期間中に被告が無断で特許発明を利用した(特許の技術を利用して商品を製造販売した)として、損害賠償を求めて提訴しました。

被告は原告の特許の無効をもとめて無効審判を請求していましたが、被告の訂正請求が認められ、被告Yの特許は有効のままとなりました。

被告Yの特許の内容は以下のとおりです。
・A 断面凸上の曲面からなる当接部を有する側溝蓋と、
・B1 前記側溝蓋で閉蓋可能な開口部を水平支持部材の上面の略中央に有し、
・B2 前記開口部の端部に前記側溝蓋の当接部の局面と略相似の断面凹状 の曲面からなり、
・B3 下端に沿って連続的に前記側溝蓋の前記当接部の下端部との間に所定の隙間を形成するためのせぎり部が形成された支持面を有するとともに、
・B4 前記水平支持部材の両端辺から下方に垂直支持部材が夫々延設された
・B5 側溝
・C  とを具備することを特徴とする被包型側溝。

文章にすると難しいですが、蓋の部分と両サイドに蓋を支える部分があるコンクリートの側溝の発明です。

この発明のポイントは、蓋の部分と蓋を支える部分が曲面になっていて、すきまがなくなり、小石や泥が入りにくくなってガタツキが減るというものでした。

また、もう一つのポイントは、蓋の部分と蓋を支える部分の終わりにせぎり部(すきま)をわざと作って、蓋のすきまに入り込んだ砂利や土を追いやることで、ガタツキを減らし、掃除もしやすくなるというものでした。

一方、被告の製品もコンクリートの側溝でした。
a 断面凸上の曲面からなる当接部を有する側溝蓋と
b1 前記側溝蓋で閉蓋可能な開口部を水平支持部材の上面の略中央に有し、
b2 前記開口部の端部に前記側溝蓋の当接部の曲面と略一致する断面凹状の曲面からなる指示面を有し、
b3 前記支持面より下方において、連続的に、前記側溝蓋の下端部に形成された回転防止用突起を係止させる切欠きが形成され、
b4 前記水平支持部材の両端辺から下方に垂直支持部材が夫々延接された
b5 側溝と
c  を具備することを特徴とする被包型側溝。

一番大きな争点は、被告製品が原告特許の構成要件B3「せぎり部」(すきま)を充足するか、でした。

この「せぎり部」(すきま)は、入り込んだ砂利や土を受け取るためのものですので、蓋と側溝がくっついている部分の下端にないといけないと解釈され、被告製品にあるすきまは、このような位置にはないと判断されました。

そのため、被告製品は構成要件B3の「せぎり部」を充足しないと判断されました。

他にも争点がありましたが、結論として、被告製品は原告の特許権に含まれない(特許権侵害にならない)とされました。

このように、特許の訴訟は、相手の製品が特許発明の範囲に入るかの判断が非常に難しいです。しかも、特許発明の範囲は発明の目的や作用も参照されて解釈しますので、複雑な発明になると大変です。

本件は、特許期間が終わった後の特許を使って損害賠償請求をしていますので、訴えられた方はとても驚いたことと思います。

被告はまず相手の特許の無効を求めて無効審判を行っています。本当に相手の特許は有効なものなのか?と疑うことはとても大事ですね。

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