【エッセイ】エンパス!現実主義の母と私と幽霊と 26. 夢で最後のお別れを。
旦那の葬式の後、旦那の友人たち、特に親衛隊の人たちは一人になった私を心配して今後も仲良くしよう、友人になろうと提案してきた。
だが、申し訳ないけど私はそれを断った。というか、葬式の後は速やかに引越し、彼らの前から完全にフェードアウトしてしまった。
その理由は、私の対人恐怖症が治った訳ではなかったし、あの場では奮い立たせていたけど結構ムリして限界だった。
そしてやはり一番は、彼らと私とでは旦那に対する心持ち、想いの質が違いすぎて一緒にいるのが辛くなってしまったのだ。
特に彼らは家での旦那の様子を聞きたがった。適当に当たり障りのない事を言っていたけど、これ以上長くいれば私はついポロッと言ってしまうと不安になった。嘘もあまり上手ではないから、油断した時に私は裏の旦那の事を言ってしまうかもしれなくて、それだけはダメだと考えた。
友人の中では旦那は尊敬されたままでいい。人格者のままでいい。そのまま彼らの理想のままで、それでいいと思ったのだ。
それはそうと、病院では最期のお別れ的な言葉は何ももらえなかった私だけど、49日が経った頃に夢で旦那と面会し、その時にやっと最後のお別れの言葉を言ってもらえた。(まったく、生きてる時に言えよって話だけど)
夢はいわゆる明晰夢だった。
普通の夢とは感覚的に違うもので、私自身がこれは夢の中だと認識していて、しかもあの世とこの世の中間地点である幽玄界にいるのだなと理解する。
私と旦那は茶色いテーブルを囲み、そこで最後の話をした。
話の内容はいろいろだったし、ちょっと変わってるかもしれない。
例えば「自分が死んだ事にはすぐに気が付いたの?」 という私の最初の質問に対し、旦那は「ここでも寝てたんだけど、あなたは死亡しましたというハガキがきてそれで分かった」と答えたり。
そして、「49日の間、気配だけでハッキリ姿を見せなかったけど、あれはなんで?」 という質問に対しては「あなたが出てくるなと言ったんでしょ」という答え。
それを聞いて思い出した。いつだったか忘れたけど、前に旦那とそういう話をした事があったのだ。
さっきの一言だけでは語弊があるかもしれないので付け足すと、先に死んだ方は遺された遺族が心配でこの世に留まったりする事があるけれど、それはどちらにとっても良くない。
もし、あなたが私より先に死ぬ事があったら、いくら私の事が心配でも、この世に留まったりしないで何も心配せずに成仏してね、私は大丈夫だから。私もそうするねと、そういう意味合いで言った言葉だった。
あとは、私だけがこれから年を重ねて、いつかあなたの年齢を追い越してどんどんオバさんになっていくね、いやだなぁという会話や、旦那からは仏壇にあげている食べ物に対してのクレームを承ったり。一緒に作った楽曲の事だったり。
あんなに良くしてくれたあなたの友人、私が突き放す真似をしてしまったという懺悔を含んだ話では、あの人は昔から親切の押し売りというかやり過ぎる所があるからそれでいいよと、意外にも私の肩を持ってくれた。
そして面会もいよいよ最後となり、お互い立ち上がった時だった。旦那は突如私を抱きしめてきた。「結婚してくれてありがとう」と、そんな言葉を言いながら。
生きてる時はそんな事しなかったし言わなかったから驚いた。そしてそれが本当に最後の言葉となった。
直後目を覚ました私はしばらく余韻に浸っていた。夢だけど夢じゃない。なんとも清々しい気分の目覚めだった。
それ以降は、それまでたまに家で感じてた気配みたいなものはなくなった。
あの夢一つで全部がスッキリしたとか、わだかまりが解消された訳ではないけれど、でも、あの夢のおかげでだいぶ気持ちの整理はつけられた。
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