いつかのメリークリスマス(前編)
トイレから出ると、ちょうど喫煙エリアから出てくる戸名くんと出くわした。
あちゃ、見られた。
はぁ..
クリスマスイブに残業してるの、見られたくなかった..
私の所属する課は2階、戸名くんの課は3階なのだが、喫煙エリアは2階にしかないからこういうことになる。
もう19時半、予定がないのはバレバレだ..
私が「お疲れ様です」と言うと、戸名くんは「お疲れ」とぶっきらぼうに言って階段を上がっていった。
席に戻る。
もうフロアのほとんどの人が帰宅していて、残っているのは私と数名のおじさま上司くらいだった。
予定がなくても早く帰ろうと思ってたのに、お客様から今日中にリターンしないといけない案件が出てしまい、あえなく残業..
恋人がサンタクロ〜ス♪
試しに口ずさんでみるとその虚しさといったら巨大な魔神のようだった。
隣の課のおじさま課長がやってきた、私の机にアルフォート2つを置いて、お疲れさん、と言った。
で、ニコッと笑って「メリークリスマス」と続けた。
その完璧なまでの微笑みに私はぶるっとしながらも「は、はい..」と応じた。
恋人いないの?とか訊いてくれる方がまだありがたい..
20時を回った。
もう帰ろう。
私はコートを羽織り、職場をあとにした。
外に出ると冷たい空気が体に覆う。
さぶ。
短い溜息をついて歩き出すと、すっと後ろから声をかけられた。
「暇なん?」
戸名くんだった。
ひ、暇とは..
何と失礼な聞き方..
「予定ないんでしょ?」
ぐ..
何と上から目線な..
「俺も予定ないんだけど、そのまま帰るの、モテないヤツみたいで恥ずかしいじゃん、何か食いに行かね?」
何と強引な..
と思いつつも、虚しく帰るよりはいいか。
「はあ、いいけど」と言うと、「じゃ、行くか」と言って、戸名くんはスタスタと前を歩き出した。
(続く)