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夕方の鐘の音

以前、仕事でお世話になっていた、個人的に凄く懐いていた元上司が、秋ごろになって会議に参加すると、彼の背後でいつも5時の鐘が鳴るBGMで、お話になっていた。

外気の渦巻きの感覚と、彼が擦れ通る他人の声や雑踏の音の中で、ちょっと低めのテノールバスの彼の声ががうすら寒い外の空気の中、モバイルに話しかける姿を想像しては、超カッコいいな、と思っていたものだ。

彼の超スキのないコート姿を想像しつつ、きゃん❤と妄想にドキドキしながら、声を上げていた。

実際の姿は、顧客先に行くとき以外は結構ラフで、作業用のジャンパーで仕事に来るときはタイをしていたけれど、みんなで最後に飲んだ時なんてちょっとした工事のオジサン並みにインフォーマルだった。それでも私は彼が大好きで、話したことすべていまだに憶えている。

面白いのは酔うと、顔が少し変わっちゃうことで、へぇ、面白いな、と思ったものだ。今頃鏡見てるのかな(笑)。一服やるときはいつも気遣って外へ行っていたが、最後にその姿を見たとき、結構、不良の中坊がたばこを吸っているみたいなちょっとかわいい感じを覚えている。

彼が可愛がっていたすぐ下の部下が、いつも夕方に外から入電する彼の背後の鐘の音の後ろで話す姿を想像しては、
「気障だよなぁ」
と羨ましそうに言ったものだ。

5時の鐘が鳴ると、いつもほほえましく考える事だ。


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