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「社員が成長する仕組み」を作ったら、7年で1人しか社員が辞めなかった

うちの離職率はすごく低いです。

社員のコンサルタントは、7年で1人しか辞めていません。

別に離職率が低いことがいいことだ、とは思っていません。考え方によっては「新陳代謝が悪い」ということなのかもしれない。ただ僕は、シンプルにこの会社を選び続けてくれていることがうれしいなと思っているのです。

なぜ、社員が辞めないのか?

それはどんな人でもきちんと育成して、成長させるからだと思っています。みんなが活躍できる環境をつくる。だからやりがいを感じてくれる。それが結果的に会社を辞めないことにつながっていると思っています。

というわけで、今回は「うちがどんな育成をしているのか?」「どうやって社員に成長してもらっているのか?」についてご紹介します。

ひとつの小さな会社の事例に過ぎませんが、なにかしらヒントになれば幸いです。

①目標は自分で決めてもらう

うちでは、社員の目標は自分で決めてもらっています。

目標は上司が決めるという会社も多いと思います。でも、うちでは社員が決めるようにしています。ただその代わり「立てた目標はかならず達成しようね」と伝えています。「それは仲間との約束だからね」と。

うちでは、目標が未達になりそうな社員がいたら仲間が助けます。つまり自分で立てた目標が達成できないと、仲間に負担をかけることになる。

だから「自分で目標を決めるから適当でいいや」とはなりません。みんな「この目標は本当に達成できるのだろうか?」と考え抜くようになります。

目標の指標は「SMART」

目標を立てるときは「SMART」というフレームワークを使います。

  1. 具体的か(Specific)

  2. 測定可能か(Measurable)

  3. 現実的か(Achievable)

  4. 経営目標と関連しているか(Related)

  5. 期日があるか(Time-bound)

という5つのチェック項目の頭文字をとって「SMART」です。

何のチェック項目もなしに目標を決めると「それは絶対にムリでしょ」という無謀な目標を立てたり、達成しても無意味な目標を立ててしまったりすることがあります。

特にまだ経験が浅い若手は「やってやるぞ!」と気合いが入りすぎて、高すぎる目標を立てがちです。うちでは、そういった現実的ではない目標は認めないようにしています。ちゃんと「SMARTの項目を満たしているか?」とチェックするようにしているのです。

こうすることで、まだ経験の浅い社員でも自分で目標を立てられるようになります。

自分で目標を立てると戦略思考が身につく

ちなみに、自分で目標を立ててもらうのは「うちのクライアントが中小企業の社長だから」ということも関係しています。

大企業がクライアントであれば、プロジェクトの目標はクライアント側が立ててくれることが多いでしょう。大企業だと部門ごとに目標があって、それを達成するためにコンサルが委託を受けるケースが多いのです。

でも、中小企業の場合は「社長の隣で」伴走します。

すると「うちは次どうしたらいいですかね?」とオープンな質問が来るんです。そのときにコンサルタントは「こういう目標がいいと思います」と自分の言葉で語れないといけません。つまり、戦略的な思考が必要になるのです。お客さんと対等にしゃべるためにも、やっぱり普段から自分で目標を立てていないとダメなのです。

目標を立てるのは、簡単ではありません。

外部および内部の環境を踏まえたうえで「こういう目標がベストだろう」と導き出すプロセスが必要です。そういう戦略的な思考が、目標設定には必要なのです。

②まず「役に立つ人」を目指してもらう

目標を立てたら、実際に契約を取ってきてもらうのですが、僕は「契約は誰でも100%取れるよ」と言っています。

どうすれば契約を取れるのか? 「役に立つ人」になればいいんです。

クライアントの役に立つことができれば、1万円でも2万円でもいただくことができます。僕らのクライアントは工務店さんがほとんどですが、何の助けもいらない会社なんてありません。

まずは「課題」や「ニーズ」なんて大げさなことは考えなくてもいい。役に立てばいい。「何か困ってないですか?」と聞いて「そうだな、最近掃除できてないから、お願いできるかな?」と言われる。「わかりました!」と返す。そのレベルでいいわけです。

うちの社員はみんな、何かしらの代行ができます。広告の運用だったり、営業の代行だったり、何かしらの武器を持っています。

保険会社から転職してきた社員は、最初「労災保険料の計算を代行します」といって契約を取っていました。行政書士が入ってきたときは「書類の作成をぜんぶ代行します」。年収1,000万のユーチューバーが入ってきたときは「YouTubeの運用代行ができます」と言っていました。

「ありがとう」と言われる仕事からやってもらう

ちなみに僕は、サンマルクカフェの教育方針がすごく好きです。

サンマルクに入社して最初にする仕事は、いちばん「ありがとう」と言われる仕事なのだそうです。ふつうの飲食店だと皿洗いとかでしょう。だけどサンマルクでは新入社員に「おかわりのパン」を配ってもらうのです。

「おかわりのパン、いかがですか?」と聞くと、お客さんからはだいたい「ありがとう」と言われるはずです。「ありがとう」と言われると「すべての仕事は"ありがとう"が起点なんだ」と社員は実感できる

サンマルクが「ありがとう」を起点にしているように、うちも「役に立つ」を起点にしているのです。

「役に立つ」のマーケットをとりにいく

話は少しそれますが、僕の会社は戦略的に「役に立つ」のマーケットから攻めていきました。

他のコンサル会社の多くは「役に立つ」マーケットは切ってしまいます。書類の作成代行や、助成金の申請サポートなどの「役に立つ」部分は時間あたりの単価が低いからです。

だけどうちにいる社労士の資格を持つ社員や、行政書士の資格を持つ社員は、それぞれの資格を使ってできる書類作成の仕事をどんどん請けていました。一般的な社労士や行政書士は請けないような定型的な書類の作成も、うちの社員は積極的にやっていたんです。

この「コンサル」と「士業」のあいだのマーケットが実はブルーオーシャンになっていた。そこで最初はそこにリソースを全振りしたのです。すると他に誰もやっていないので、案件の紹介はものすごく増えました。そうやって全国を回って代行しまくっていたら、気づけばその分野の日本一になっていました。その結果、メンバーも増えました。

単価が低いのに、なぜそのマーケットを攻めたのか?

それは社員のみんなに「役に立つ」が根本にあるコンサルタントになってもらいたかったからです。プロフェッショナルマインドの高いコンサルが揃っている会社だと「役に立つ」は当たり前なのかもしれません。だけどうちは異業種からの転職者も多くて、プロフェショナルなコンサルが揃っていない状況からのスタートでした。

こうして醸成された「役に立つために、お節介なことをする」というカルチャーが、いまコンサル会社として他社との差別化になっているのです。

③「役に立つ」から「意味がある」へ

「役に立つ」ができるようになった社員には「意味がある」を目指してもらっています。

「意味がある」までいくと問題解決に対するインパクトの大きさが変わります。インパクトというのは「問題の深さ」と「解の質」の2軸のマトリックスで決まります。

たとえば「ブログが書けなくて困っている」という会社があるとします。そこで「じゃあブログを代行しますね」と言う。これだと、どれだけブログの質が高くてもインパクトはそこまで大きくなりません。なぜなら、解決している「問題の深さ」は変わっていないから。

これは「役には立つけど、意味はない」ケースです。

このケースから「役に立つし、意味がある」へジャンプすることはできません。これを僕は「死の谷」と呼んでいますが、「役に立つ」をどれだけがんばっても、その先に「意味」はないんです。

変えるべきは、向きあう「問題の深さ」です。

「この会社の根本的な問題はなんだろう?」と問う。出てくる答えに何回も「なぜ?」と問う。そうやって問題を深めていくんです。そこまでできて、初めて「解の質を磨く」という話になります。安宅さんの『イシューからはじめよ』に書いてある考え方と同じですが、どれだけ解の質を磨いても、そもそも解くべき問題の深さがなければ意味がない。

ただ「役に立つ」から「意味がある」へのジャンプは大変です。

うちの仕事を「意味がある」だけに絞ってしまうと、活躍できるようになるまでに少なくとも3年はかかる。だからうちでは「1万円でもいいから、まずは役に立てることを考えてみて」と伝えているんです。そうすれば社員みんなが、すぐに活躍しやすくなる。そこがうちらしさにつながっているんだと思います。

④フェーズごとにコミュニケーションの仕方を変える

社員育成するうえで、上司からの声がけ・フィードバックは重要です。

うちでは社員の成長フェーズに応じて、コミュニケーションのやり方を変えています。これはケン・ブランチャードという組織論の学者の理論を参考にしているのですが、少し説明します。

上司からのコミュニケーションは、

指示型→提案型→援助型→確認型

の4段階があります。(実はケン・ブランチャードは「指示型→コーチ型→支援型→委任型」という言い方をしているのですが、僕なりにしっくりくる表現に少しアレンジしています。)

社員に「どうすればいいと思う?」といった質問をせず、いきなり「〇〇してください」と言うのが「指示型」です。

次の「提案型」というのは、「こうするといいよ」と答えを伝えつつ、質問もするやり方です。つまり「○○するのがいいと思うんだけど、どうかな?」と聞くイメージです。

入社して1年ほど経つと、技能レベルはそこまで高くないけれど「自分なりにちょっとやってみたい」と思うようになります。そのフェーズでもずっと指示型だと、モチベーションが落ちてしまいます。

なので、「こうしたらいいと思うけどどうかな?」と質問も交えた形にするわけです。すると最終的には部下が自分で選んだ感覚になります。そうすればモチベーションが落ちることはありません。そうやって経験を積むなかで技能も伸びてくるはずです。

その次のフェーズでは、答えは言わずに「どうするといいかな?」と質問だけする「援助型」が有効です。

技能が伸びた後は完全に任せたくなりますが、任せきってしまうと部下が不安になったり、グレたりしてしまいます。そのフェーズでは「どうするといいと思う?」と質問をして、上司が答えをチェックするとうまくいきます。

最後が、ゴールだけ確認する「確認型」です。完全に任せられるフェーズになったら、「いつまでにこの成果を出してね」とゴールだけを確認をする。質問をしないし、答えも言いません。

うちではこの4段階に分けてコミュニケーションをとっています。

コミュニケーションのとり方は予め共有する

フェーズごとにコミュニケーションの仕方を変えるやり方は、上司と部下のお互いが理解することで初めて効果的になります。

だからうちでは社内の研修で、予め「第1フェーズは指示型で、第2フェーズは〜」と体系的かつ丁寧に伝えるようにしています。コミュニケーションの型について、みんなで共通の認識を持つようにしているんです。

部下には「答えを教えてほしいときとか、自分にやらせてほしいときは言ってね」と伝えています。共通の認識を持ったうえで部下からも声をあげるようにする。そうしないと、上司はよかれと思ってやっていたのに、実は部下はイヤがっていたというスレ違いが起こってしまうからです。

部下のことを試したり、失敗させたい上司なんて、ひとりもいません。みんな「部下に成長して、うまくいってほしいな」と思っている。そのためにも「いま提案型だな」「最近は援助型だな」とお互いにわかっていたほうがコミュニケーションがスムーズになるんです。

⑤「集合天才」の組織を目指す

僕が組織を作るうえで大切にしている概念が「集合天才」です。

うちには、いろんな領域のエキスパートがいます。営業やマーケティング、採用、教育など、コンサルタント一人ひとりがそれぞれ何らかの強みを持っている。こうしたいろんな分野のエキスパートが協力することを「集合天才」と呼んでいます。

これは「ひとつの分野だけに詳しいスペシャリストを目指しましょう」ということではありません。うちでは基本的にすべてのコンサルタントがすべての分野を支援できることを目指しています。

集合天才の組織とは「すべての分野ができるようになったうえで、さらに尖った分野を持ちましょう」ということです。

「教えあう」カルチャーがある

また、うちには「教えあうカルチャー」があります。

社内のあちこちで、先輩と後輩がいろいろレクチャーしたり、会話したりしています。みんなで成長していく風土があるのは、コンサルティング会社には珍しいうちの特徴かもしれません。

うちは事業領域も広く、僕が全部のことを教えることはできません。というより、僕も自分の知らない分野についていろいろと教えてもらっています。Twitterとかインスタの最前線については若手のほうが詳しいんです。

教えることは、自分の勉強にもなります。誰かに教えるために勉強しなおすこともありますし、教えるからこそインプットできるという側面もある。いちばん学べているのは、実は教えている人だったりするんです。

お互いに教えあい、学びあうことで「集合天才」の組織を目指しています。

社員ひとりにつき、年間100万円の教育費

ちなみに僕らの会社では、社員ひとりに年間100万円の教育費を投資しています。全員分をあわせると、年間で数千万円はかかっています。

工務店さんの支援に役立てるため、そのお金でたとえば地域再生の専門家である木下斉さんを講師として招いて、講義していただきました。他にも建築とエネルギーの第一人者である竹内昌義さん、『プロフェッショナル 仕事の流儀』にも出演した建築家の大島芳彦さんなどに講義していただいたこともあります。いろんな分野や業界のトップクラスの方々から学ぶことで、知見を日々アップデートしているんです。

なぜ、そんなにお金をかけるのかというと、人がいちばん大切な資本だからです。

かつては「会社の売上は、僕とか経営陣が頑張ればなんとかなるだろう」と思っていました。しかし、規模が大きくなってくるにつれ「社員に成長してもらわないとダメだな」と強く感じるようになったんです。一人ひとりが力をつけてもらう必要がある。だから、教育にはかなり投資をしています。

組織を「引っ張る」のではなく「支える」存在でありたい

うちは自己資本だけで経営しています。

投資家や銀行からは調達していません。もし調達すると「この期までにこの売上を超えてね」などのプレッシャーをかけられます。そうすると僕は社員のみんなに「今月は絶対にこの売上を超えなきゃダメだ!」とプレッシャーをかけなければいけません。それはイヤなんです。

僕は社員それぞれに合った成長スピードや働き方をサポートしたい。

そのために自己資本のみでやっています。

いま世の中でいちばんメジャーな組織図は「ピラミッド型組織」と呼ばれるものです。いちばん上が「社長」で、いちばん下が「新人社員」の関係になっています。

うちが目指すのは「逆ピラミッド」の組織。社員のみんなを、社長がいちばん下から支えるイメージです。

「圧倒的に成長して、早く一人前になりたいです!」という社員がいれば、どうすれば高い目標を達成できるのか一緒に考える。なかなか成果が出ない社員がいれば、見捨てることなく芽が出るまで粘り強く教育する。

僕は組織をグイグイと「引っ張る」のではなく、ドッシリ「支える」存在でありたいなと思っています。縁の下の力持ちとして、これからも社員みんなが成長して活躍できる組織を作っていきたいなと思っているんです。

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