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家は、"敷地に価値なし、エリアに価値あり”。 なぜ、今住宅工務店による「まちづくり」が必要なのか?

住宅マーケットはこれから2年間で20%の市場縮小が予測されており、年間80万戸あった新築需要はいよいよ70万戸を切る見込みです。落ち込む需要に対して、どのように戦っていくのか、住宅各社は模索しています。

そんな中、注目されているのが住宅工務店による「まちづくり」。家の中だけではなく、家の外にまで目を向けて、そのまちでの暮らしをデザインすることで「あのまちに住みたい」という人を増やしていこうという取り組みです。

そこで株式会社SUMUSでは、昨年からまちづくりの専門家である木下 斉さんとタッグを組み、エリア再生を考える住宅工務店のための「ローカル ディベロッパーキャンプ」を開催しています。

今年の開催に向けて、僕のnoteでも木下さんと一緒に、住宅工務店によるまちづくりの現状や、エリア再生が求められる背景などについて語っていきたいと思います。

第1回目のテーマは、「なぜ、住宅工務店が"まちづくり”に乗り出さなくてはいけないのか」です!


(敬称略)

商圏を拡大し、他のまちから人を呼び込む

小林:これまで、住宅工務店の主な顧客は、同一エリアの賃貸住宅に住んでいる世帯でした。つまりアパートから一軒家への住み替えです。家の値付けも、近隣のアパート価格から考えていました。

しかし、特に田舎では人がどんどん減っていますので、これまで通りのやり方では、同じだけの住宅を提供することは難しくなってしまいます。縮小する市場の中で生き残っていくためには、商圏を拡大して、他のエリアから人を連れてくるという発想が欠かせません。

木下:そうですね。商圏をもっと広域で見ないといけないですよね。

小林:はい。実は住宅工務店の商圏の拡大は、これまでの歴史の中にもありました。それがSNSの出現です。

もともとは、住宅業界では、総合展示場やチラシでの集客が主流でした。総合展示場の集客はどうしても「待ち」の姿勢になってしまいますし、かといってチラシを配布するとコストがかかります。広域に配布しようとすれば、予算がいくらあっても足りません。

しかし、SNSが出てきたことで、少ない予算であっても、少し離れた市や通勤圏内の人にまで狙って広告が打てるようになりました。これは商圏拡大の1歩目でした。

さらにここからは、より広域に商圏を捉えていかなければいけません。逆に言えば、商圏を広く捉えることで田舎といわれるような地域であっても、まだまだ人が増える可能性は十分にあるんです。

ちょうど先日、北海道の大樹町を訪問してきたんです。ここでは官民一体となって「宇宙のまちづくり」を進めています。

画像引用:大樹町ウェブサイト

もともと人口5000人ほどしかいなかった町ですが、ホリエモンこと堀江貴文氏が出資しているロケット開発のインターステラテクノロジズがそこに拠点をおき、従業員を60名くらいを採用したんだそうです。つまり人口が1~2%増えたんです。

これによって、約7000坪・25区画の新築分譲地の開発が予定されているそうです。さらに新しいまちに必要な機能も整えていく必要があります。

商圏を変えて広く人を呼ぶことができれば、まだまだ新築事業だけでも伸びることができるんだなと思いました。

木下:やっぱり新産業が来ると、需要が急に出てきますよね。熊本県の菊陽町には、台湾の世界的な半導体メーカーTSMCが大きな工場をつくりました。これにより、今年の夏以降、台湾から駐在員と家族の計600人余りが熊本にやってくると言われています。

画像引用:熊本日日新聞「TSMCって何がスゴいの? そもそもなぜ熊本に進出?? 経済記者がイチから解説 「もっとよく分かる」TSMC①」

だから、家の中だけじゃなくて、住宅の外も含めた"面"的な戦略があるといいなと思いますね。実際にそれを望んでいる人たちもいるんですけど、特にローカルではそういう供給側の選択肢がたくさんあるわけではないので、作る側からするとチャンスもまだまだあると思います。

小林:菊陽町の話だと、実際1億円クラスの建売住宅がどんどん売れているという話も聞いています。台湾のグローバルエリートの人にとってみれば、1億円って別に高くないですからね。

台湾の場合、中国との問題が大きくなってくると、台湾の方々が九州に移り住んでくるということはあり得る話ですので、その試金石になる事例じゃないかなと思っています。

ただ、そのためにも木下さんが仰られたような、面的なエリアそのものの開発がされていかないと、そういう場所として選ばれることはないですよね。

木下:そうですね。やっぱり教育レベルが高いとか、緑(グリーン)の比率が高いとか、世界的に安定して不動産価格が上がる場所には、そういう共通の条件があるんですよ。

そういう部分に、住宅供給する側が目を付けていくと、建てる時の金額だけでなく、リセールの価格にも影響します。3,000万円~4,000万円で買っても、売るときにほぼ価値がなくなってしまうような家と比べたら、1億円で買って、9000万円で売れれば別に高くないですよね。

小林:大樹町や菊陽町は企業誘致の事例ですが、まちのイメージUPで首都圏から人を呼び込んだ分かりやすい事例が千葉県の流山市です。流山市では、ターゲットを明確に「世帯年収1500万円以上の、共働きの子育て世帯」と絞り、マーケティングを行いました。

「母になるなら、流山市」という象徴的なキャッチコピーで、東京で働くパワーカップルを取り込むことに成功しています。

流山の事例は、僕のnoteでも以前に紹介しているので、ぜひこちらも読んでみてください。


敷地に価値なし、エリアに価値あり

小林:世の中に普及した「モノからコトへ」という価値観は、もちろん住宅業界にも大きな影響を与えました。家というハコをつくるのではなく、その中で繰り広げられる日々の生活、ライフスタイルを提案し、暮らし方を売るという考えは今や広く浸透しています。

それが、これからは「家の中でどう暮らすか」だけでなく、「このまちでどう暮らすか」といった家の外の暮らしにまで範囲を広げていくことになると予想しています。

「敷地に価値無し、エリアに価値あり」という有名な言葉の通り、ライフスタイルをという言葉をもっと広く捉えて、「このまちではどんな素敵な暮らし方ができるか」というところまで広げて考えられる工務店が増えてくるはずです。

木下:面のデザインという観点がこれから注目されてくるでしょうね。ただ接道していて駐車場があるだけのお決まりの形ではなく、その場所ならではのランドスケープがあるかどうか。

首都圏で言えば先ほど話に出てきた流山市もそうです。「都心から一番近い森のまち」というコンセプトが、ノビノビとした緑豊かな環境で子育てをしたいと考える夫婦の心をつかみました。

人を集めようと考えられているまちは、1棟1棟のスペックだけではなく、街路をデザインしてあり、統一感のある素敵な街並みをつくっています。

画像引用:「流山ウェルカムガイド」流山での暮らし方が具体的に描かれている。

僕も、行政を巻き込んで公園や道路とか全体の面を良くするには、という話をさせてもらっているのですが、これからはおそらく「住宅」をつくっていく工務店さん自体が、そのプレイヤーになり得るんだと強く感じています。

小林:この考え方は新築だけではなく、リノベーションにも通じています。新築需要が減少する中で、リノベ事業をはじめる工務店さんも多いのですが、これからは1軒ずつ「点」でリノベをするだけでなく、エリアという「面のリノベーション」を考えることが重要になってくると思います。

住宅工務店というのは、そのエリアで最もたくさんの広告宣伝費を使っていることが多いのです。SUUMOやホームズなどのポータルサイトには年間4000億円くらいの広告宣伝費が使われています。そのお金の一部だけでも、地元に落とすことができれば、エリア再生はきっと可能になります。

また、地域投資をする際には、市や区のような広い範囲に分散して投資するのではなく、半径200メートルほどのエリアに集中投資をすべきです。

人口3万8千人の地域に数億円投資をしてもインパクトは小さいかもしれませんが、半径200メートル、人口1000人の地域に数億円を投資すれば、明らかにそのエリアの雰囲気は変わります。

PLではなく、BSで考える。

木下:工務店の方々はこれまで「つくる」のが専門だった。それなりに需要もありましたし、みなさんそこに注力して作って→売っての繰り返しで住宅を供給されてきたと思います。

ここからは「1棟売っていくら」という考え方ではなく、数棟合同で販売をする。しかも「他のところよりも、素敵だよね」と言われるようなエリアを中長期で開発していくという視点が必要になってくると思います。

小林:仰る通り、住宅工務店が今後生き残っていくためには、これまで通りのやり方だけでは難しいです。これまでは、「作って終わり」のフロービジネス。しかし、未来に対する補償がないビジネスはリスクも大きいです。

半径200メートルほどの限られた範囲に集中投資をして人気のエリアを作ることができれば、資産価値が上がり、土地の値段も上がります。

これまでは、坪単価5万円だったエリアが8万円になり、10万円になり、20万円になり……。こんな事例は実は全国各地にたくさんあるんですよね。初期の、土地の値段が安いうちに不動産を手に入れていた人たちは、これでかなり儲けています。

住宅工務店も、今後はこうした視点を経営に取り入れていくことが重要になっていきます。

木下:やっぱり大切なのは、BSの視点ですよね。これまで通り、材料を仕入れて1棟建てて、原価を引いていくら儲かったというビジネスだけでなく、それがある程度集まった「あのエリアがいいよね」を作れるかどうか。

我々も、物件再生に携わることがあるのですが、1つ魅力的なビルがあっても周辺がめちゃくちゃだと話になりません。

まちづくりでも住宅でも、やっぱり、エリアに価値がある。だからこそ、住宅工務店の方々もエリア単位での開発というのを考えるフェーズに来ていると思います。

BS的視点でいうと、キャピタルゲインを狙う。キャピタルゲインとは、株でも土地でも、保有している資産を売却して得られる売買差益のこと。仕込んでいるときには値段がつかないような安い土地であっても、開発して「住みたい・働きたい・オフィスを設けたい」といった需要が集まってくることで土地の値段が上がっていくんですよね。

そうした中長期的な視点で考えられると、工務店さんのビジネスのやり方ももっと変わってくると思います。

(終)

2023年11月の「【第2回】ローカルディベロッパーキャンプ」まで、木下さんと複数回にわたって対談をお届けしてまいります。

どうぞお楽しみに!

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木下斉さん

エリア・イノベーション・アライアンス代表理事
まちづくりの専門家で、内閣府地域活性化伝道師も務める。高校在学時からまちづくり事業に取り組み、00年に全国商店街による共同出資会社を設立、同年「IT革命」で新語流行語大賞を受賞。2009年一般社団法人エリア・イノベーション・アライアンスを設立、2015年、都市経営プロフェショナルスクールを設立。事業開発・連携、人材開発、情報発信の3つの柱をもとに日本全国のまちづくりに携わっている。

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