いまでもあのバンドに夢中なの?
楽に生きるためには人に期待しないことが大切だと言われる。実際その通りだと思う。他人は自分の思い通りにはならない。望み通りの返答をくれないし、押し付けようとしても無駄だからある程度の諦めが必要。
大切で、特別で、そう簡単には人に教えたくない音楽や映画や本がある。かつて自分は、そういった音楽などを一世一代の覚悟をもって人に勧めて「そんなに刺さらなかった」とか言われた日にはショックで寝込む勢いだった。なんなら、この魅力がわからない人間って何?と関係値の破綻に至らしめる有様だった。
今なら大抵「残念だけどそういう人もいるよね」と受け流せる。期待しなければ傷つかない。
なるほどこういうことか、と思った。
2011年に出会ってからずっと聴き続けているバンドがいる。彼らの新曲があまりにも素晴らしかったので10年前に一緒に夢中になっていた幼馴染に共有しようとした。あの頃の自分たちにとっては間違いなく特別な存在だったし、自分にとっては今も。
「あのバンドの名前が変わった。メンバーも入れ替わったけど、曲の空気や大好きな声は変わってない。こないだ空前絶後の良い曲を出していて無条件に泣けてくるんだけど、この歌詞を読んでどう思う?」
送信する前に、考えた。
その幼馴染とは最近は全然会っていなくて、とうの昔に人生が分岐している。感性や重要視するものが今は違っているかもしれない。もしかしたら、もしかしたら、そんなバンドいたっけ?と言われる可能性すらゼロとは言えない。
適当な反応が返ってきても「まあ他人なんてこんなもんか」と思えるだろうか。
思えたくない。この曲に関しては、もしそうなったらちゃんと落ち込みたい。でもできれば誰にも幻滅したくない。
期待しない方が良いとわかっていても期待したいことがあって、勝手な期待を裏切られることが心底怖くて、送れなかった。
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