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不要な苺を買った

また風邪をひいた。

風邪をひきすぎる。あらゆる場面ですぐに熱が出て喉が壊れる。

そんなことはさておき先日、冷蔵庫を覗くとトマトとベーコンとモッツァレラチーズがあった。あとはバジルさえあれば美味しいパスタが作れるな、とさっそくスーパーに行ってバジルを手にレジへ向かった。

しかしレジで店員から「こいつはさしずめマルゲリータピザかパスタを作ろうとしたが、バジルを忘れてのこのこ買い足しに来たのだな」と嘲笑されることを懸念して不要な苺なども買った。

苺は美味しい。

よく晴れた日に機嫌よく新しい革靴を履いて出かけたら、ありえない規模の靴擦れをしてお気に入りの靴下が血塗られてしまった。仕方がないので近くのコンビニに入って絆創膏を探すと靴擦れ専用バンドエイドが売られていた。

まともに歩くこともままならないほどの痛みだったので助かったと思ったが、この歩き方で靴擦れ専用バンドエイドを持って行って、レジで店員から「こいつは晴天に浮かれて新しい革靴を意気揚々と履いたものの無様にも靴擦れしてコンビニに駆け込んだのだな」と嘲笑されることを懸念して普通のバンドエイドにした。

デリカシーのない人間が、風で崩れた前髪を気にしている女子に「誰も見てないよ」などと無駄な真理を突いてみせることがあるが誰も見ていなくても自分が見ている。

レジの人からしたら自分は多くの客の中の一人にすぎず、バイトを終えて風呂に入った頃にはバジルのことなどすっかり忘れ去っているのだから不要な苺を買ってカモフラージュする必要はない。

わかっている。わかっちゃいるが気にしてしまうものは仕方ない。このような症状を漢字五文字で自意識過剰と言います。

明日は声を使う仕事がある。

なんとしてでも風邪を治さなければならない。近所のドラッグストアに行き、のど飴2袋とスプレー、薬とトローチをカゴに入れた。店員から「喉を壊したんだな」と思われることを懸念したが、だからどうしたという話だ。

自意識よりも大切なものがある。

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