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45・内田裕也 ロッケンロールよろしく!

「U.F.O.ソース、濃くて旨いから……。ロッケンロール!」

 内田裕也がエジプトハゲワシの扮装で銀髪を立てて叫ぶ「日清焼そば U.F.O.」のCMのなかで、きゃりーぱみゅぱみゅ「ファッションモンスター」のダンスを御年78歳が披露している。

 昨年、日本のテレビ界は、松居一代vs船越英一郎夫妻のリアル・サスペンス劇場、夫婦間デスマッチに夢中になったが、ボクに言わせれば、芸能界最強&最凶の夫婦は、内田裕也&樹木希林夫婦に決まっている。 

 そして、「U.F.O.」とは、ボクに言わせれば「内田(U)裕也は 夫婦(F)ともども 恐(0)ろしい!」の略なのだ。

 なにしろ、ボクには、この最狂夫妻にリアルに絡まれた恐ろしい過去があるのだ──。

 2013年8月11日。
 デスクトップでツイッターのタイムラインを読んでいた時のことだ。
「なんじゃ、これは!」
 と思わず声を上げる文面を発見した。

 「芸能界のカダフィ大佐」と古舘伊知郎に評されたこともある、芸能界随一の過激派・内田裕也が自身で書き込む公式アカウントにて、当時連載していた、この「週刊藝人春秋」を読んだと思しき感想が呟かれていた。

 水道橋博士君、北野武氏の弟子と思ってシンバシーを持っているが、何でも書けばいいってもんじゃない!勝さんが松田美由紀嬢に数百万円!?『ボルボ』俺だって言いたいことはある。男は言っていいこと! 悪いこと! CHOICEが必要だ! ROCK'N ROLLは地下鉄に乗っている!!

 正直、何度読み返しても、真に意味するところは読み取れなかった。
 5年前の連載時に「赤いボルボ」と題して、女優・松田美由紀の愛車と生前の勝新太郎にまつわる因縁話を書いた直後のことだ。
 これは、ボクの書いた内容に間違いがあるのか、あるいは、古きことをよく知る大御所ロッケンローラーに、ボクの取材不足が露見したのか。

 私ごときロクデナシの書いたロクでもない連載にロックの鬼神がツイート・アンド・シャウトしている。
 果たして、愛あるお灸を据えるつもりか、はたまた直情的な怒りの炎か。内田裕也の過去の言動、いざこざの数々に鑑みれば、高確率で後者である可能性が高い……。

 正直、怖い。

 かと言って、アカウントをブロックすれば、さらなる延焼を招くことも必至だ。
 触らぬ裕也に祟りなし、泣く子とシェキナベイべーには勝てぬ。
 今回は不当な駁撃に抗せず、批判を甘んじて受け、そのまま放置しておいた。
 しかし、いつ何時、何処かで、内田裕也に遭遇したならば、ヘッドにドクロの付いたお馴染のステッキで叩かれ、いや、心臓を刺されることも想定し得る。

 もはや内田裕也から逃れる術などなかった。

 内田裕也──。
 その男、凶暴につき。
〝頭からダイオキシン〟としか思えぬ、逸話は山のようにある。
 最近は高齢で大人しくなったと言う人もいるが、2011年5月には、50歳のCAと別れ話で揉め、その女性の自宅のロックをアンロック。
 住居侵入の容疑で逮捕され、留置所にロックアップされている。
 しかも、警察署に留置されていた時に付けられた内田の番号が、偶然にも「69(=ロック)」であったことは、その後、本人が各地で語る持ちネタになっている。
 老いて丸くなることはない。
 老いてこそ、ますますロックな人生だ。

 件のツイッターの書き込みを発見してから7ヶ月後の、2014年3月1日──。

 ボクは、WOWOWプライム無料放送デーの11時間特番に出演した。  
 もともと、総合司会は千原ジュニアと内田恭子アナであったが、彼が裏番組と被る時間帯のみ、ボクが特別MCを担当することになった。

 そして、よりによって、その時間のゲストに内田裕也がブッキングされていた!
 この日のWOWOW特番は、西田敏行を「一日エンタメ隊長」に迎え、映画『釣りバカ日誌』や、直後に控えた第86回アカデミー賞の予想番組などを放送し、その合間にMCとゲスト陣による繋ぎのトークパートが挟まれる構成。
 ボクの出番はわずか10分×2本の予定であったが、いかんせん、この一触即発の状況下だ。

 行くしかない。

 ボクは、本来の入り時間の2時間前から江東区のスタジオに詰めた。
 当日、内田裕也到着の報を受けるや、すぐさまプロデューサーに連れられて楽屋挨拶へと直行した。
 プライベートでは何度か面識はあるが、番組で共演するのは、この日が初めてだ。
 土下座覚悟で楽屋へ入ると……。
 予想に反して、強面の顔を歪めて破顔一笑。

「オウッ! ひさしぶり! 毎週『週刊文春』読んでるよ。あの連載、最高だな! 実はキミに文才があるとは、今まで知らなかったんだよ!」
「いえ、そのことで一度ツイッターでお叱りを受けまして……。松田美由紀さんと勝新さんのボルボの話で……直接お詫びを申し上げようと思いまして……」
「いやいや。あれは俺が勝さんのこと思い出してねェ、俺も映画作りで色々あったから。資金調達ってトラブルがあるの。必ずウラ話がね。勝さんと俺にもあるの。だったらコッチも書けよ! って話がさ。怒っているのはキミに対してじゃないよ! ま、いくらオレでも、タケちゃんマンの弟子に危害は加えませんよ!」
 そんな具合に、拍子抜けの言葉を掛けられたが、正直、ホッとした。
 楽屋でのそんなやりとりを経て、いざ本番。この雰囲気は、完全にジョークを飛ばすチャンスだ!

「今日のWOWOWは〝釣りバカ〟と〝ロックバカ〟の共演ですね」と思い切って軽口を叩いてみた。
「キミ、俺の前で言うねェー」
 内田裕也の口元が崩れる。
 ゲストトークのテーマが「私にとってのスーパースター」だったので、続けて内田裕也に問い質した。
「やっぱー、俺にとってのスーパースターつったら、ストーンズとビートルズに決まりだろ!」
「そうですよね。裕也さんはビートルズの初来日の時、武道館で前座で演奏したんですよね?」
「おい、前座じゃねぇよ! あれは共演したんだよ!!」

(うわ、またしくじりそう……)

 言葉を選び選び、寿命の縮むような生放送は無事終了した。
 内田裕也は本番中も上機嫌だった。別れ際、「またよろしく頼むよ!」と言うと、手を差し出し、がっちりと握手しながらボクの耳元で囁いた。
「ロッケンロール!よろしく!」

しかし、一難去ってまた一難。
2016年10月5日、夜──。
「もしもし、水道橋さん? あなたに言いたいことがあるのよ!」 
 電話の主は、内田裕也の妻、樹木希林だった。     

                 (つづく)                  

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