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41 軽蔑の微笑み 片山さつき


 文春砲に端を発した女子レスリング・パワハラ問題、先月、ついにラスボス降臨──。
 栄和人氏が監督を務める、至学館大学の谷岡郁子学長が記者会見を開き、猛反論した。

 見覚えのある顔だった……。
 ボクが谷岡学長のことを知ったのは15年も前、妻と知り合った頃だ。
 妻の実家は至学館大学がある愛知県大府の駅前で『みかど』という名の料亭を営んでいる。
 谷岡は学校経営の一家の生まれで、驚くことに1986年、32歳の若さで至学館大学の前身であった中京女子大学の学長に就任した。
 その後、2007年には民主党公認で参議院選挙に当選、議員を一期務めた。
 ボクの妻の父、つまり義父は、ご近所の中京女子大の女子レスリング部が郷土の自慢のタネであり「中京女子の学長は若くて綺麗で力量がある。いつも朗らかで仲間と一緒に来てくれるんだよ」と頼もしげに語っていたのを今も良く覚えている。
 ちょうど、吉田沙保里と伊調馨が金メダルを獲り騒がれ始めた時期だ。
それから、幾歳月──。

 記者会見に現れた谷岡学長は、メークを落とした小池百合子のような険のある表情で記者を睨み付け、独自のパワハラ論を展開。
 国民栄誉賞の伊調馨を見下し〝軽蔑の微笑み〟を浮かべながら、最後には「栄監督のハゲを増すことはできませんので励ませませんが、彼女は励ませました」と〝とくダネ!〟もビックリの謎のハゲジョークまでかぶせた。

 翌日、ボクはMXテレビの生放送で学長が元国会議員だったことを踏まえ、「権威を笠に、上から目線で物言う傲慢さ。この方が、かの元国会議員の豊田真由子のように、いつ栄監督を『このハゲー! 』と言い出すか心配です」と取り上げた。
 共演者の杉村太蔵は「懐かしいですね。僕が国会議員時代には一緒でしたので……」と言うと、ボクがかぶせて「さっき太蔵が『ミス・パワハラです』って言ってましたが……」太蔵は憮然と「……!? 私は一言も言っておりませんよ!」
 ボクのムチャブリに太蔵が声を荒げるとスタジオが笑いに包まれた。

 さて、このニュースと共に、連日報道されているのが、財務省の役人による公文書の改竄問題だ。
 財務省は「省庁の中の省庁」と言われ、エリート中のエリートが入省すると言われている。
 昨今は女性の活躍が望まれているが、女性で財務省キャリアになることは飛び抜けて頭脳明晰な才女の証明だ。
 3月17日のTBS『ニュースキャスター』では、その財務省が特集され、1982年、東大法学部から新卒採用で入省した若かりし頃の片山さつき(現・自民参議院議員)の初登庁のVTRが発掘されていた。
 東大在学中、女性誌の企画で「ミス東大」と紹介された聖子ちゃんカットの彼女は、当時からマスコミに引っ張りだこで、その後、気鋭の国際政治学者であった舛添要一(元都知事)と結婚(1989年に離婚)した。

 ボクが、初めて片山さつき議員に本格的にインタビューをしたのは、2006年3月22日──。
 TBS『週刊アサ㊙ジャーナル』の収録で、赤坂プリンスホテル別館の片隅に出向いた。
 当時からマスコミ露出が過多だったので型に嵌った話以外を探りつつ、片山の語りを引き出していく。
 彼女が持参したシステム手帳はページからはみ出す付箋と切り抜きだらけで、ビッグマックの如く膨れ上がり、その厚みに驚いたが、中身は謎の型番が数多く記されていた。
 聞けば、財務省の主計局主計官時代、彼女は防衛庁の予算見積もりを担当し、軍事おたくの石破茂と兵器の型番だけで何時間でも語り合えたほどの女性らしからぬ軍事の論客だったという逸話は面白かった。
 あの頃、党勢を増していた民主党の政権交代の可能性についても「民主党はそこまでのもんじゃない……」と、マニフェスト政策をバッサリと切捨て、彼方此方(あちこち)で、当時の前原代表を「こいつ」呼ばわりしていたのも、さもありなん、だった。

 「まだ財務省の役人だった片山さつきが『鳩山先生は高校時代、全国模試で1位、1位、3位、1位だったそうですね』と聞くと、邦夫は自慢そうに『そうだ』と答えた。すると片山さつきが『私は1位、1位、1位、1位でした』と勝ち誇ったように言ったというのです。さすがに邦夫は、あとから『あの女はなんだ!』とカンカンだったといいます」(「日刊ゲンダイ」2010年3月18日号)

 日本有数を誇る高すぎるIQ女子のターボのかかった頭の回転の速いトークは、故・鳩山邦夫先生でなくても鼻についた。
 その後もボクと片山は、何度か共演を繰り返し、2015年10月24日、テレビ愛知の討論番組で数度目の再会となったが……。
 本番前、片山はスタジオの隅に立つボクのところまでわざわざ近づいて来て「はじめまして!」と曰わった。

 ロングインタビュー、数々の共演を経ても、この〝秀才〟は、ボクの名前と顔が一致しない。兵器の名前は覚えられるのに、たけし軍団の兵士の名前は覚えられないのか……。 
 自民党の大先輩、田中角栄は、どんな相手であってもフルネームで覚えたという。その記憶力、気遣いから、人は彼を〝天才〟と呼んだ。
 たとえ「小学校高等科卒」を標榜し、東大法学部卒の片山と比べて格段に学歴が低くとも……。

 そして、ボクが最も彼女について印象に残っているのは2012年6月2日、テレビ大阪『たかじんNOマネー』の生放送の出来事だ。
 その日のテーマは「生活保護問題」。
 彼女は、自らが告発した渦中のよしもと芸人をバッサリと叩き切るとCMに入ったところでスタッフに向けて軽口を叩いた。
「……日本はねー、専門家でもないのにコメンテーターとして話す、芸人とか、お笑いの人いるでしょ? 海外ではあんなのありえないから……」
 その瞬間である。彼女の死角から荒々しいダミ声が飛んだ。
「おいッ、それワシのことか!」
 ……桂ざこば師匠だった。
 彼女は、その場をとりなおしてはいたが、このやりとりを見ていたボクは赤面しつつ自問自答した。
 ボクも専門知識がないのにコメンテーター慣れしてはいまいか、と。
 その気持ちが、後に、この番組の生放送で、ボクが「小銭稼ぎのコメンテーター降板事件」を起こす一因に繋がっていった気さえする。
 何にせよ、彼女も日本初の女性総理大臣を目指すなら、舛添要一を夫ではなく反面教師にすべきではなかったか。
 いつも謙虚に〝IQ〟の高さに比する〝愛嬌〟を持つこと。

 大宅壮一曰く「男の顔は履歴書・女の顔は請求書」だが、謙虚でなければ、自らに有名税は、追って課されるのだから。

【その後のはなし】
 AKB48の新曲、『軽蔑していた愛情』が、その歌詞を聴くうちに、今回のお題を思い浮かんだ。

偏差値次第の階級で
未来が決められてる
もう頑張っても
どうしようもないこと
ずいぶん前に
気づいてただけ

(歌詞の丸々引用、JASRACの承諾のルールとか、作詞者、著作権番号表記とか、出版界のルール、慣例、専門的なことはわかりませんが大丈夫ですか?)

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