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化粧という拘束と発芽について

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目覚め

早朝遭遇すると、目線を合わせず下を向いたまま、もごもごと口だけを動かして挨拶をしてくる男の子がいる。挨拶のときに彼と目があったことは一度もない。真面目で、誠実で、仕事ができる。シャイで、見つめられるのが苦手。最近、眼鏡に加えてコンタクトを併用し始めた。そんな男の子を想像してみてほしい。私の目覚めはそこから始まる。

だれかに化粧を施すのはこれで二度目。一度目にお化粧をさせてもらってから、ずっとまたやってみたいと思っていた。一度目は個人的に、今回は人が見ているオフィシャルな場で化粧を行うこととなった。そんな中で目覚めてしまったフェチズムが「化粧を施す」ことである。


化粧という拘束

化粧ってその人の身体を拘束してしまう行為なのだと気づいた時、私のおなかのなかで何かが発芽した。

化粧を施した男の子は私よりはるかに背が高くて立ったままでの作業がしにくかったので、まず椅子に座らせた。私は基本起立して、化粧をしやすい位置へと動きまわりながら肌を触る。ふいに顎を軽く持ち上げて上を向かせ、顔を近づけてこっちを見るように言うとドギマギしながら素直に応じる男の子が可愛い。

目を瞑らせる。目元のメイクは正面からだとやりにくいので、時々膝の上にまたがるようにして肌に触れる。邪魔な髪の毛を手のひらでかきあげながら逃げないように頭を固定する。オフィシャルな場にしては行動が大胆すぎないかと思われるかもしれないが、なんと偶然にも、そういう行動がナチュラルに行えてしまう条件が揃っていたのである。偶然にも。

シャドウを入れ終わって次にアイラインを引こうというとき。
マスカラをしたりアイラインを引いたことのある人なら分かると思うけれど、初めてだと怖くてぎゅっと目を瞑ってしまったりするのです。でも、上睫毛のきわにラインを引きたいのに目を瞑られてしまったらちゃんとラインが引けないでしょう?「怖い?」と聞くとコクコクうなずくので、優しい調子でなだめつつ軽く瞼を上に引っ張りあげながらラインを引いた。その度、男の子の身体がかすかに震える。そこで私は気づいてしまったのである。

これって拘束じゃないですか。


もう手遅れ

考え始めてしまったらさいご、私の心臓は喉元まで跳ね上がって落ち着きをなくした。男の子が私の前に座って、背筋を小さく丸めて身体を硬直させたり、怖さゆえ瞼をギュッとこすり合わせたりしている。緊張を解きほぐすために優しくするくせに、緊張させるための行為をする。この矛盾、この惑い、そしてこの興奮。

からだに白濁した液体が満たされていく。顎を持ち上げて下に顔を傾けたらキスできる距離だけれどしないし、怯えるのをみて可愛いねとわらっている私がいる。いつの間にか、この子のすべてが私の手中にある。

化粧の仕上げで、男の子が地面に膝をついて私の顔を見上げる体制になった。細かな調整をするには椅子が邪魔だったのである。目をそらそうとするので、こっちを見てと言って顎を触る。いつの間にかそこには、明確な支配関係が出来上がっていた。従順で目が合わせられなくて、狼狽しながら操作される男の子。彼は私には触れないし、言葉もほとんど発しない。この落差に私はやられてしまっていた。

「ああ、なんて可愛いんだろう。」

そう思ってしまうのは私が歪んでいるから。あとひといきで食べられるだろうと思ってもしないのは、もっと乾いて悶えていてほしいから。自然すぎるほど自然に出来上がったこういう支配関係が、私は好き。耽溺してしまうフェチズムの一つなのだろうと思う。


かたちにもいろいろ

化粧を施す行為自体も好きだけれど、化粧して仕上がった顔を見るのも好き。わたし好みにするのもいいけれど、その人が一番魅力的に見えるようにするのも好き。その人の一部を理解して、その人にとっての最も理想的な結果を描いて見せること、ここに私の好きがある。それも一つの支配の形で掌握の方法だと思う。とてもむずかしいし空回ることばかりだけれど、好きなものは好きなので仕方がない。これも私の一部分。

化粧をしてみて思ったんだけど、拘束結構好きかもしれない。今まであまり興味をそそられなかったけれど、今度だれかをしっかり拘束して楽しいことをしてみたいなって思う。


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