父親がどれだけ育児に参加しているかは脳をスキャンすればわかる
他の動物に比べ、生まれたばかりの人間の赤ちゃんを養育するには膨大な労力がかかります。そのような労力を負担しても構わないと思える無償の愛はどのように育まれるのでしょうか?
女性は妊娠や出産や授乳を通じて愛情ホルモンと呼ばれるオキシトシンが上昇し、脳の一部も活性化します。それらの生物学的変化を通じて赤ちゃんに特別な愛着を抱きます。では、妊娠出産しなかった親、つまり父親や養子縁組をした親には、子どもに対する無償の愛は生まれないのでしょうか?実の母親の愛情には勝てないのでしょうか?
今回は、①実子を育てている母(育児主担当)、②実子を育てている父(育児サブ担当)、③養子を育てているゲイカップルの父(育児主担当)、それぞれの脳、オキシトシン、育児行動を測定した観察実験をご紹介します。無条件の愛が生まれる人間の不思議なメカニズムの解明に挑戦した論文です。
結論
・①実子を育てている母(育児主担当)は、②実子を育てている父(育児サブ担当)に比べて扁桃体が活性化していた
・③養子を育てているゲイカップルの父(育児主担当)は、①実子を育てている母(育児主担当)と同様に、扁桃体が活性化していた
・①実子を育てている母(育児主担当)と③養子を育てているゲイカップルの父(育児主担当)は、②実子を育てている父(育児サブ担当)よりも、赤ちゃんとの同調性が高かった
・実子かどうかに関わらず、全ての父親において、赤ちゃんを世話する程度や過ごす時間数と脳の変性具合(扁桃体とSTSの結合の程度)は関連していた
実験デザイン
対象:赤ちゃんを育てている87人を対象に、脳のスキャン、オキシトシンの測定、ビデオで夜育児行動の観測を行った
①実子を育てている母(育児主担当)20人
②実子を育てている父(育児サブ担当)20人
③養子を育てているゲイカップルの父(育児主担当)47人
結果、①実子を育てている母(育児主担当)は、②実子を育てている父(育児サブ担当)に比べて扁桃体が活性化していたが、③養子を育てているゲイカップルの父(育児主担当)もまた①実子を育てている母(育児主担当)と同様に、扁桃体が活性化していた
①実子を育てている母(育児主担当)と③養子を育てているゲイカップルの父(育児主担当)は、②実子を育てている父(育児サブ担当)よりも、赤ちゃんとの同調性が高かった
実子かどうかに関わらず、全ての父親において、赤ちゃんを世話する程度や過ごす時間数と脳の変性具合(扁桃体とSTSの結合の程度)は関連していた
エビデンスレベル:比較実験(自然実験)
編集後記
どうやら親から子への愛着は、出産の有無や血のつながりではなく、どれだけ赤ちゃんに深く関わったかによって育まれるようです。引用論文のタイトルは「父親の脳は育児経験に敏感である」です。血縁も自分の性別も関係なく、親になるかどうかは自分の意志で選択できるのですね。
文責:識名 由佳
参考文献
Abraham, E., Hendler, T., Shapira-Lichter, I., Kanat-Maymon, Y., Zagoory-Sharon, O., & Feldman, R. (2014). Father’s brain is sensitive to childcare experiences. Proceedings of the National Academy of Sciences
. https://doi.org/10.1073/pnas.1402569111
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