2023ファジアーノ岡山にフォーカス50『 ファジとバイスの挑戦(22~23?) 』


1、岡山の22シーズン


 23番 ヨルディ・バイスの加入に湧いた22シーズン。そのニュースにファジアーノ岡山サポーターの誰もが湧いた。あのバイスが、岡山に来てくれた。今季もエースとして活躍する7チアゴ・アウベスの加入もあり、ファジへの期待値は大きくなった。

 実績のある選手だけではない今季のシーズン途中まで、22番を背負っていた佐野 航大 選手の加入と岡山のエース番号である14番を継承した14田中 雄大、26番で加入して右CBで、自らの武器を形として躍動する現在は15番本山 遥などのルーキーの活躍が光ったシーズンであった。

 そして、コロナの影響があった中で、合流の遅れていた9ハン・イグォンや8ステファン・ムークが、合流して行く中で、力強さや巧さで、圧倒的な存在感を示す。21シーズン途中に加入していた当時15番のミッチェル・デュークもまた現役のオーストラリア代表という事もあり、その運動量や高さ、躍動感あるプレー、献身的な守備で、多くのファンの心を掴んでいた。

 出場可能な外国籍選手を越える5人を抱えて、誰かが外れてしまうというチーム状況の中で、激しい競争と圧倒的な選手層として、シーズン終盤まで、自動昇格の可能性が残る戦いをすることができた。

 こういった激しい競争の中でも23ヨルディ・バイスは、アクシデント以外で、スタメンを外れる事はなかった。誰もが、その得点力や高さ、強さが伴った力強い守備に釘付けになった。

 彼の魅力は、それだけではなかった。ピッチ外での熱い言葉で、サポーターの心を熱くさせて、多くのサポーターの心を突き動かす魂を突き動かした。今でも多くのサポーターが、彼の言葉として思い浮かぶのが、

「我々はファジアーノ岡山なので、絶対に諦めることはない。」

 という熱い言葉である。きっと彼の言葉は、後世へと語り継がれて、ジーコスピリッツのように、バイススピリッツとして、継承されて行く中で、岡山の強さの一つとなることは間違いない。

 まさに22シーズンは、数ある外国籍選手がいた中でも、リーグ戦は、23ヨルディ・バイスのシーズンであったと言っても過言ではない。

 だからこそ、23シーズンへの期待も大きかった。


2、最高のパートナー


 23ヨルディ・バイスの存在感をより奮い立たせた選手がいる。それが、5柳 育崇である。この二人のプレースタイルは、似ていて、このコンビの魅力は、やはり、その得点力だ。

 5柳 育崇は、高い打点でのヘディングシュートで得点。23ヨルディ・バイスは、高さも魅力だが、FK、PKや間接FK(山形戦)を含む右足から得点。CBながらこの二人の得点力は、岡山の大きな武器であった。

 16河野 諒祐の正確なCKやFKのアシストや当時41番であった徳元 修平のロングスローの後押しもあった。セットプレーでの得点力は、まさに岡山の武器となっていた。

 守備でも岡山へのロングパスに対して、跳ね返す高さは、迫力があり、目を奪われた。1対1の守備や球際でのデュエル、シュートに対してのブロック。まさに気持ちの籠った守備は、岡山の堅守を支えた。

 そして、23ヨルディ・バイスは、左右から繰り出される速く正確なフィードでのチャンスメークから、多くの攻撃の形を作った。中でも右足から右奥の16河野 諒祐へのフィードの成功率は、群を抜いていた。警戒していても防げないフィード。それが、ヨルディ・バイスの右足だ。

 5柳 育崇もフィードを蹴る事もあったが、やはりどうしてもズレてしまう。ただ、CBの二人が、同じ狙い、同じプレーをイメージして、プレーできていた。まさに阿吽の呼吸であった。

 確かに、両選手ともスピードがない事で、そこの対応力の弱さや、前に出てしまう事でスペースを作ってしまうという弱点も抱えていたが、そういった声が小さくなるだけのパフォーマンスをみせていた。

 まさに22シーズンにおいて、J2のCBの中でもトップクラスの活躍したコンビで、岡山の試合を熱く盛り上げた。


3、サッカーの転換


 22シーズンも今のスタイルにトライしていた時期もあったが、形にできず断念。23シーズンは、開幕からそのサッカーへの本格的な挑戦から始まった。23ヨルディ・バイスと5柳 育崇もそのサッカーへの適応を意識しつつも、自分のスタイルも大事にしていた。

 しかし、新スタイルに挑戦していく中で、シーズンが進む中で、チームのロングパス比率は、目に見えて減り、キープやドリブル、ショートパスの比率が増えて行く。22シーズンで、ロングパスへの高い適性を見せていた9ハン・イグォンも今季は、フィットすることなく、リーグ戦からの出場機会が遠のいた。

 中盤に目を向けると、44仙波 大志が、サポーター間で仙波クルクルと呼ばれるターンで、頭角を現すと、中盤の主軸として躍り出る。41田部井 涼も岡山らしいハードワークを身につけると、徐々に岡山の中での41田部井 涼のスタイルを見つけ出し、徐々に出場機会を増やしていく。

 FWでも長らく主軸を担っていた18櫻川 ソロモンもロングパス比率が増えない中で、自らの持ち味を発揮できるシーンが減って行く中で、最後のシュートを決めきれないという決定力不足を露呈することとなってしまい18櫻川 ソロモンもまた出場機会が少なくなっていく。

 こうしたチーム内での序列の変化が少しずつ進んで行く中で、4バックがメインであった時は良かったが、3バックがメインとなった事が定まった時に、その決断がついに下された。23ヨルディ・バイスが、町田戦からスタメンからついに外れてしまった。

 その代わりにスタメンを掴んだのは、15本山 遥である。22シーズンの躍動したシーズンに比べて、SBとしてスタートをきったが、定位置の奪取に至らず、苦しいスタートであった。DHでの出場を契機に、SBのポジションへの拘りを捨てた事で、15本山 遥自身を縛っていた鎖のようなものは解けていく。様々なポジションを任されて行く中で、全ての経験を総動員したプレーに自信が戻って来る。

 木山 隆之 監督が、指揮を執れない試合で、第三者視点で改めて、チームを観た時に、練習のパフォーマンスを加味をしてのもであったが、町田戦以降は、木山 隆之 監督が、直接指揮する試合の多くの右CBには、15本山 遥の名前が多くなっていた。

 チームのアクシデントなどがあり、23ヨルディ・バイスのスタメンの試合があったが、足を痙攣させて、途中交代で下がってしまった試合や最新の山形戦では、そのパフォーマンスにその体調を心配する声や物足りなさを感じるサポーターも多く、厳しい現実が、そこに有ったと言ってもいい。


4、バイスの今


 23ヨルディ・バイスに今何が起きているのか?

 岡山サポーターの中には多くの声がある。今の状況をみて、23ヨルディ・バイスからファジアーノ岡山が、卒業を意識しているのではないか?という声。そして、そこに対しての23ヨルディ・バイス自身も自覚があり、立ち振る舞いを考えているのではないか?という声もあれば、23ヨルディ・バイスの体力的な衰えや試合から少し遠のいた事による試合勘の低下があるのではないかという声、そもそもチームのサッカーにマッチしていないからパフォーマンスが落ちてしまっているという声もある。

 一方で、山形戦のパフォーマンスも悪くないという声もある。開始直後のスライディングタックル退場を恐れて、控えたという声やコースを切る守備への意識、つまりチームの中での正解を探すプレーへとシフトしたのではないか?という声だ。実際にこの守備により防げた失点もある。ただ、やはり23ヨルディ・バイスらしさは、そこにはなかった。

 個人的には、実は多くの方がご指摘されていた点は、全て当て嵌まるのではないか?というのが、正直な声である。やはり、23ヨルディ・バイスは、ラグビーの選手と言われても不思議ではない体格をしており、むしろ、あれだけ90分間走れて、飛んで、やりきるのは、相当難しいはずだ。

 それを公式戦に出場し続けることができたことで、試合感というメンタルコンディションと90分間やりきれる体力であるフィジカルコンディションの双方で、高いレベルを維持してきたからだ。

 途絶えてしまえば、その影響は計り知れない。ただ、短い時間であれば、磐田戦のように躍動感のあるプレーができる試合もあることは事実だ。惜しいミドルシュートを放った試合など、攻守での存在感が際立つ。

 千葉戦の大敗時でのチーム内での振る舞いや練習で、言葉で選手を鼓舞し、もう一度戦えるステージに押し上げる23ヨルディ・バイス。やはり、1人1人できる役割は違うので、23ヨルディ・バイスにしかできない役割も多い。

 群馬戦では、後方からフィードで5柳 育崇や99ルカオを活かす右足のフィードの精度というのは、まだまだ錆びつくには早いですし、まだまだやれる。そういった気持ちを彼のプレーからは感じた。


5、バイスの選択は?


 私の中で、大きく分けて3つあると思っています。

 1つ目は、フル出場できるクラブを求めて、移籍することである。前述した通り、選手として、長く現役としてプレーしたいのであれば、フル出場することを必要とされるクラブに移籍することが一番です。

 元々同じクラブに長く在籍することの少ない選手ですし、他クラブに移籍することで刺激を受ける事で、心身共にまだまだやれるという事を証明する挑戦を選択するかもしれません。

 怪我の少ない選手ですし、ずっと出場し続ける中で、怪我をしないための準備や彼の言動の1つ1つは、チームを1つにする。熱くする。チームを成長させることのできる稀有な選手です。そう考えると、十分可能性のある選択です。

 2つ目は、岡山での3シーズン目に挑戦することです。24シーズンのカテゴリーやチーム編成によるかもしれませんが、23ベースであれば、23ヨルディ・バイスは、途中出場がメインか、バックアップという立ち位置になる可能性が高い。

 恐らくそうなると、待遇を含めて、23ヨルディ・バイスのキャリアの中では、厳しいものになるかもしれない。ただ、クラブとしては、そういった形でも残って欲しい選手ですし、それだけの影響力のある選手です。

 ただ、選手としての選手生命は、間違いなく短くなるでしょう。大きな怪我をしない限りは、先ほど書いた通り、フル出場を続けて行くことが一番です。スタメンで出場した時のパフォーマンスを考えると、このままだと、引退が早くなってしまう。そういった危機感すらも感じるだけに、残って欲しいが、残るという決断もまた難しい面もある。

 そして、最後の3つ目は、2023年という事を考えて、自身の背番号である23番と同じ、2023シーズン限りでの引退。これも可能性としては0ではないだろう。23ヨルディ・バイス自身が、自身の体のことは良く分かっていて、仮に山形戦のようにある意味、セーブしている様なプレーになってしまうのであれば、考えている選択肢の1つであっても不思議ではない。

 23番の選手が、2023年に引退することは、一度しかできない。ただ、もしかすると、J1への想いや現役続行への想いというか、情熱が残っていれば、まず、考えられない選択肢だ。

 しかしながら、23ヨルディ・バイスような、説得力のあり、熱い言葉、スピリッツを持っている選手が、自身の引き際を考えない訳が無く、もしかすると、岡山のプレーを最後に勇退することも十分考えられる。

 正直、どの選択肢も考えられる中で、ファジアーノ岡山が、2023シーズンをどう終えるかも、23ヨルディ・バイスの選択もまた変わって来るかもしれない。

 今はJ1昇格のために、23ヨルディ・バイスだけではなく、1人ができることや、やるべきことを考えながら残り4試合を戦うファジアーノ岡山。

 今は、J1でプレーする23ヨルディ・バイスの想像をしながら、昇格を目指す岡山の応援で、少しでも後押しすることで、夢を叶える。

 その先に23ヨルディ・バイスに、どういった選択が待っているのか。23ヨルディ・バイスのどの選択を選んでも、違う意味でも涙するかもしれない。23ヨルディ・バイスという選手は、多くの人の気持ちを動かすことができる選手であるからだ。

 23ヨルディ・バイスとファジアーノ岡山の2023シーズンの挑戦を見届けたい。

文章=杉野 雅昭
text=Masaaki Sugino


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