方針の変更。

先々週に「毎週木曜日に超短編小説を発表します」という宣言をしました。そして先週木曜日に「電話」という超短編小説を発表しました。

小説を書こうかなという思いが芽生えたのがいつだったのか正確には覚えていません。その匂いを感じたのはもう1年くらい前にさかのぼるのではないかと思います。そこから半年以上が経過。小説らしきものの冒頭をいくつか書き始めてみたのが今年の8月くらいだったはずです。しかしどうしても、ひとつの作品を最後まで完結させることができない。

その悩みというか違和感みたいなものは頭の片隅に居座りつづけていました。その打開策として上記の宣言をするに至ったのです。そのおかげもあって、生まれてはじめてひとつの物語を完結させることができました。その晩は奥さんがケーキを準備してくれて小さなお祝い。赤ちゃんような小さな一歩、だけど確かな一歩を踏み出せた実感が湧いたのを覚えています。( 奥さんへ、いつもありがとうね )

その翌日、カフェで奥さんが何気なく話しかけてきた。「小説、読んだよ」小さな胸の疼きを感じながら返す。「ありがとう」そうして僕はそのとき読んでいた小説に目線を戻した。しかし、一向に集中できない。ぜんぜん意味が頭に入ってこない。意を決して僕は顔を上げて、自分の作業をしている奥さんに問いかける。「ねえ、どうだった?」その後の会話はうろ覚えだ。その理由については、奥さんは忌憚のない意見を言ってくれた、とだけ書いておこう。

なんて逃げ腰で書いてはみたものの、彼女の言葉をもらう前からわかっていたことだから、何も失うものもないので率直に書こうと思います。それは未熟で、欠陥の多い作品でした。正直にいうと小説とさえ言えないのではないかとさえ思いました。

しかし今回の取り組みに関して、全部を否定するつもりはありません。どんなに不出来であったとはいえ、最後まで書ききることができたことはいまの僕にとって重要な意味のあることだったと感じています。

そのうえで今週、こういった内容に類する文章を何度も目にしたのです。そして、心の底に重石のように沈んできました。

僕のアドバイスは、レイモンド・カーヴァーが大学の創作講座で学生達にしたアドバイスとまったく同じものです。「書き直せ」、これがすべてです。いろんなものを書き散らすのではなく、ひとつのことを何度でも何度でも、いやになるくらい書き直す。これが大事です。その作業に耐えられない人は、まず作家になれません。それから指導してくれる人が必要です。何度も書き直し、何度も忠告を受ける( あるいは批判される )、そうやって人は文章の書き方を学んでいきます。(  村上春樹『村上さんのところ』より引用 )

何度もその石を心の外へと取り出してみたのですが、その度にまた、ずぅんと沈みこんでくるのです。そんな流れで昨日、写真家の幡野広志さんと話をさせていただく機会に恵まれました。幡野さんの話を聞いたり、自分の話をするあいだに腹が決まりました。幡野さんのもちろんながらエゴでもなく、しかしだからといって変に重たい使命感でもない、軽やかで透明なフリーエネルギーの原動力に直に触れられたのが大きかったと思います。

「心の底から納得のいく形で小説を書き上げる」

そのことが決まってから、後押しをしてくれるような言葉にいくつか出会ったのです。偶然に立ち寄ったお店の本棚に、365日誕生日占い辞典が置かれていて自分の誕生日のページをひらく。その一部にこう書かれていました。

衝動的な傾向と、手っ取り早く満足感を得たいという欲望が障害になるでしょう。楽しいことが好きなので、安易な選択に逃げる可能性も。目的意識や方向性を見失うことになるかもしれないので気をつけて。

確かに自分でも、ひとつのテーマに腰を据えて取り組むということが苦手である、と薄々は思っていた。こういう毎日のように更新するnoteは一日いちにちという短いスパンで読んでくださる人がいたり、閲覧ページ数などがわかるので集中力が弱い僕には向いている。自分の持ち味を活かすという意味合いにおいて、それはそれで大事だと考えてやりつづけてきた。しかし、である。上記のような村上春樹さんの視点も大事だし、以下のような沢木耕太郎さんのしてんも大事だし、実際的にやるべき必要があると心のそこではずっと思ってきた。

ある時期ぐっと我慢して、大きな仕事を一つするってことをどうしてできないんだろうって思ったりするんですよ。3年歯を食いしばって名刺代わりになるような仕事を完成させれば、そこから自由が拓けるのに、それを耐える忍耐力が若い書き手には少ないんだろうか。( 川村元気『仕事。』より引用 )

大切だと思いながらも、なかなかどうして腰があがらない。しかし、このnoteで書いた一連の出来事の裏にあるメッセージみたいなものを受け取り、よし、と心を決めたのです。

しばらくのあいだ小説については潜伏作業に入りますが、どんな形で浮上してくるのか楽しみにしておいていただければ嬉しいです。

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