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短編:【運転免許証更新曲】

この三連休の初日は祭日だった。誕生日が近い僕の元には免許更新を知らせるハガキが届いていた。正直、とても憂鬱だった。

ご存知の通り、運転免許証の更新は数年間隔で個人個人の誕生日を境に一ヵ月ずつの猶予があり、それを越えると結構面倒なことになるので、いつもいつもなるべく早め早めで行動をしている。

さて何故憂鬱なのかを共有しておくと、少し前の春先のこと、車で買い物へと出かけた際に、普段通らない道を使っていた。日曜日ということもあって交通量が多い日だった。春の交通安全週間という特別な期間ならではの悲劇が発生した。普段通らない道、交通量の多さ、春と言う陽気に誘われての遠出。そして天気の良い日曜日。こんな日に仕事をしている警察官は、とても意地悪だった。

「ね、あの位置では進路変更できないから!」
「いやいや、あの左車線に大きなトラックが止められていたら、その先で左折車線に入るしかないじゃないですか!?」
「しょうがないよね、これルールだから…」
完全に春の交通安全週間での得点稼ぎとしか思えない。
「あ〜ゴールデンドライバーだったの…残念だね。ま、1点だけだから…」
いやいやそんなことではない。ちょっとは言い分を聞いてくださいよ!との願いも届かないまま
「はい、後日この6500円を払ってくれればイイから…」
他人事である。いとも簡単に何十年も続けていたゴールデンな免許をブルーな気分に戻してくれた。

そしていよいよやって来た、免許剥奪の儀式。

三連休の初日、重い気持ちを抑え込んで早朝のバスに乗る。8時30分の開場なので、7時半には家を出た。思ったよりも車内も空いていた。目的のバス停に到着。あれ?思ったよりも人が降りない。…まさか。

免許証更新の会場は、解錠しておらず…いやダジャレではなく、重い門が閉じていて立て看板が1枚。
『土曜・祭日は一斉の業務を行っていません』
はあ…土曜がやっていないのは知っていたが、祭日もなのか…
肩を落として、仕方ない!明後日の日曜にもう一回来よう!と覚悟を決める。

そうなると、土曜も早く寝て、日曜に早く起きる必要がある!なので、その帰宅後は一週間の疲れを癒やす酒盛りを行う。帰り間際にカウチポテトの買込みを済ませてストレス解消。丁度先日、会社の健康診断を行ったばかりで、きっと結果は最悪だろうと確信している私は、泥のようにお酒のあおり土曜日を有意義に洗濯物と映画鑑賞三昧の日と定め、予定通り過ごした。

明けて日曜日。朝の6時に起床し朝ごはんと身なりを整えてちょっと早めの7時20分に出発。と、その違いはすぐに気がついた。更新会場へ向かうバスはすでに満員だったのだ。開場の8時半より20分も早い、8時10分に着いたにも係らず超・長蛇の列。その大蛇は大きな3つのトグロを巻き、外では200メートル以上、施設の中ですら100メートル近い行列。

最初の窓口にたどり着いたのは、8時50分のこと。開場時間より早く着いたのに、どう考えても長い大蛇のその動きにぐったりしてしまう。
そして今回一番の失敗が、数年に一度しか変えることのできない証明写真である。前回も酷い写真だと感じていたのに、今回はそれ以上に最悪な仕上がり。確認できる画像を見ているのなら一声かけて欲しいのに、そんな長蛇の更新者がいるのだから、仕方が無いのとも思うのだが…只でさえ、ゴールデン免許がブルーになって、気分も落ちているのに、その写真は本当にバカにしているとしか思えない一枚…本当におまわりさんは意地悪だな…

疲れたこともあるが、そんな免許証は出来ればもう見たくない。
いや、この後すぐにマイナンバーカードと一体化を申請すればすぐに変更できるか…今度は絶対に、自分で写真を撮って持っていこうと強く心を決めた。

ついてない時はついてない。いやこれだけ最悪のトラブルが続けば、あとは上がるだけだろうか。たまたまその前日の土曜日、映画三昧だった作品の中で豊川悦司さんがダメ親父の役で出ていて、そのセリフが脳裏をよぎる。
『最悪なことが続いている…そんな時はこう言うのさ…いよいよ面白くなって来やがった!』
もちろん泣きそうな気持ちを抑えながら呟いた。
「いよいよ面白くなって来やがった!」
貴重な三連休に起きた平穏な出来事でした。

     「つづく」 作:スエナガ

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