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【Report】ジンバブエの医療事情〜経済崩壊した国で健康を保つ難しさと重要性〜

私は、幸運なことにジンバブエで体調不良のために病院に行ったことはまだない。できる限りお世話にならないで帰りたいものだが、これからまだ滞在期間は長いのでどうなるかはわからず、体調不良になった際は常に「これ以上悪化するなよ、、」と持参した薬とこちらの市販薬でどうにか戦っている。

ジンバブエは一度経済が完膚なきまでに崩壊しているので、その影響もあって医療事情もなかなかにひどいものだなあと思っている。本記事ではどこがどうひどいのか、医療というものがどれだけ経済の影響を受けるのか、半年住んでわかってきたことをレポートしてみよう。

経済崩壊と医療人材の流出

まずはもちろん、ハイパーインフレによる医療人材の流出に触れなければならない。ジンバブエでは2000年以降のインフレで一度金が紙切れになった国である。

医療水準は、2000年頃まではアフリカの中でも施設・人材共に比較的整った国だったようだけれど、2008年前後のハイパーインフレで頭脳流出が続いた。医師や看護師は、旧イギリス宗主国だった関係で、イギリスの免許と互換しやすいらしく、この前後でかなりの人数がイギリス連邦の国外に逃れた。そのため、ジンバブエ国内の、特に公立病院にはもともと医療人材がかなり足りていない。

近年もかなりのインフレが再燃していて、公立病院の少ない給料がさらに価値が下落し、この国に勤めること自体がハイリスクになってしまっている。そのため、医療人材の流出は続いており、特にBrexitとコロナの影響でヘルスワーカーが足りていなかったイギリスへの移民が増加した。

昨年の2022年3月には公共医療機関で働く2000名が辞職し、そのうちの900名が看護師だったというニュースがBBCから出ている。

そして、2023年3月には、政府が看護師流出に歯止めをかける動きを見せている、という見出しの記事もある。

この記事によると、現在看護師が国外に移動するための書類の手数料を$150から$300に倍増し、たとえ支払えたとしてもその書類を手に入れられないことも多いという。各月の給与は$135しかないにも関わらず、である。

医療保険制度

ジンバブエ、他のアフリカの多くの国と同じように、医療保険は整っていない。日本だと国民皆保険で医療費は3割負担が基本だけれど、国によるそんな制度がまずない。

白人や一部のお金持ちは、自分で高いお金を払って保険会社に保険料を支払っている人もいるかもしれないが、それは一般人には不可能だろう。

そして私たち日本人がしてほしいレベルの医療を受けると、医療費は本当に高い。注射一本で$100くらいは普通な世界。注射一本でひとりのひと月分の給料が全て持っていかれるとすると、よっぽどじゃないとちゃんとした医療を受けるのは無理そうである。

病院の種類(公立・私立・私営クリニック)

ジンバブエにも日本と同じように、公立の大きな病院、私立の大きな病院、私営の〇〇科といった形の小規模クリニックがある。

隊員に何かが起きた時は、絶対に私立病院かクリニックになります、とは言われている。公立病院には間違っても行かない。というのも、公立病院だと処置がどうなるかわかったものではないから。

ど田舎の任地でも、27km先の村に小さな私立のクリニックがあるので、なにかあったら学校がそこにつれていってくれるという。そこで良くならなかった場合、首都の白人さんが経営している大きめの私立病院があるので連れて行ってもらえるとのこと。首都の病院でも高度な専門治療は無理なので、どうにもならないような病気や怪我の場合、緊急で隣国・南アフリカの病院に搬送してはもらえるらしい。まったく、そこまでは絶対に行きたくないけれど!

公立病院のストライキ

2022年の年末、公立病院の医師・看護師によるストライキが相次ぎ国内で問題となった。その結果、2023年の1月に、公立病院でのストライキは非合法となり、ストライキに参加した人には罰金または半年間の禁固刑が課されることになった。

このニュースによると、2021年以降、4000人以上の医療人材が国外に流出していると言う。また、看護師は、ジンバブエドルの急激な下落によって、ひと月にUS $100分しか給与を貰えていない。この国の平均的な給与が、私がきた半年前には$100~200/月と言われていたが、ジンバブエ人がジンバブエドルで給与を貰い続けているとしたら現在はもっと下がっているのかもしれない。

薬局(Pharmasy)

街中には小規模の薬局が点在しており、医者を通さず直接薬を買うことができる。わたしも数回利用している。日本だったら処方箋が必要な薬も、お金を払えば手に入るジンバブエである。
以下にわたしが価格調査したものを挙げておく。

ロラタジン(Made in India)
日本だと処方箋が必要な抗ヒスタミン剤。花粉症がありえないほどひどくなり、持参したアレルギー剤が数ヶ月でなくなってしまい購入。1ヶ月分で$8〜10くらい。

ちなみになんのアレルギーかはよくわからない。植生がちがいすぎるのと、土埃のなかに何が入っているかはもう、全然分からないのだ!コワイ。
今も薬を飲んでいても鼻炎症状はひどく、油断するとすぐ風邪っぽくなってしまう。つらい。

低容量ピル
日本で買えるものと同じ成分のピルが一箱$1で買えて驚いた。日本と比べて安すぎる!


さすがアフリカ、と思って色々調べたらちょっと面白い記述を見つけたので入れ込んでおく。

2 極化したアフリカのもう 1 極はジンバブエに代表される、貧しくて近代的避妊法が普及している国である。ジンバブエでは避妊実行率が 60.2%、ピルの使用率が 43%(避妊実行者の 71.4%)と高い。しかしそのライフスタイルが西欧化しているわけではなく、国民の 3 割が HIV に感染しており経済的にも財政破綻などの問題を抱えている。このことから ジンバブエにおけるピルの普及には、JICA、 WHO などが多産による貧困からの脱却のため、 避妊指導やピル支給などを行っているという背景があるのではないかと考えられる。

世界で使用されている避妊法 -ピルに焦点をあてて- 森岡 真梨

ジンバブエではピルの使用率がアフリカで際立って高いらしい。この記述の不十分かな?と思うところは、理由が違う気がする。JICA, WHOの活躍も多少はあるかもしれないが、学校で性教育をきちっとやっている気がする。そもそもジンバブエの教育のレベルはムガベ政権以来ずっと周辺国と比べて高かった。公立学校の女性用トイレには女性が自分を守るためのコンドームなども大量に置いてあってびっくりしたのである。

(調べきれていないのでここは次回の課題!)

ジンバブエで流行っている病気

ジンバブエも他のアフリカ諸国と同様、さまざまな病気が流行っている。

エイズ(HIV)

HIV罹患率(15-49歳)は約12 %、HIV感染者数は約130万人と推定され、依然として大きな社会問題となっている模様。ムラ社会なのでエイズに罹患するとコミュニティにいられなくなり、エイズ罹患者の精神疾患も多いという話も聞いたことがある。

コレラ・腸チフス

首都の南部に人口密集地域がある。スラムのようなマーケット街Mbare(ムバレ)である。このエリアを中心として、上下水道の状況がひどいため、コレラや腸チフスといった感染症はたびたび流行り、ニュースになっている。

Mbareの様子(拾い画)。

マラリア

特にわたしがいるジンバブエ北東部はマラリアの発生地域になっているので、マラリアの検査キットと治療薬はJICAから1セットもらっている。

上が治療薬、下は簡易検査キット。

けれど、現地の人の感覚でも、「マラリア?みたことはあるけど、ここでは別に心配しなくて大丈夫だよ〜心配ならこれ(虫除け)塗っときな」という感じなので、わたしはもう蚊はよく刺されていた(塗ったところで刺されるし、けっこう周りのローカルもみんな刺されているので大丈夫かなあと思っている)。

その他よくアフリカで注意喚起されるもの

  • 狂犬病:発症したら死ぬので協力隊のオリエンテーションでもよく注意される。野犬は田舎は特に非常によくいて、家の周りを走り回っている。

  • 住血吸虫症:カリバ湖など湖や川もあるけれど、水には絶対入るな!とのこと。
    などなど。

意外とジンバブエでは大丈夫な(流行っていない)もの

  • 黄熱病*

  • 髄膜炎菌髄膜炎*

*この2つの予防接種はジンバブエ渡航だけなら不要。

終わりに:経済崩壊した国で健康維持する難しさと重要性

わたしはジンバブエの田舎で暮らしている。きれいな水は限られた量しかなく、スーパーマーケットは70km先にしかない。この状況で、きちんと栄養をとって健康に過ごすことだけでもまあまあ難易度は高い。

そして病気になってしまったら、どれだけちゃんとした医療が受けられるかは運次第、金次第なところがある。何があっても、健康に過ごすことが一番。健康第一で活動も進めていきたいなあと思っている。下手にストレスをためない!これが一番大変!笑

わたしのようなお金がある日本人でさえこの田舎で健康を保つ食生活や運動をするのはむずかしいのだから、ローカルの人々の健康を保つ難易度はさらに高そう(彼らは生まれた時からこうなので慣れている、という考え方もあるかもしれないが)。

そしてローカルの人こそ一度病気になると大変である。医療費が絶対に足りないだろうと思う。

たぶん、ここの人たちは、例えばがんになったら、私立病院にかかりたければ周りからお金を借りまくって医療費にするんだろうと想像する。返せるかはわからないけれど、とりあえず今必要だから貸してくれないか、ということで周りの家族や同僚、近しい人からお金を工面し、病院に行く。代わりに周りが困っていたら助ける。考え方によっては周囲との関係が保険になっているとも言える。

アフリカのシェア文化、どこまでシェアするのか、もう少し仲良くなったら同僚やルームメイトにでも聞いてみようと思っている。

▼参考文献

  • 世界の医療事情(外務省)

▼筆者によるジンバブエに関するレポート、日々の記録はこちら


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