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山田尚子監督の新たな飛躍へ、新作短編、仏映画祭でフォーカス

6月13日から18日までフランスで開催するアヌシー国際アニメーション映画祭が、期間中の上映作品を次々に発表しています。世界で最も歴史が古く、規模が大きなことで知られるアニメーション映画祭ですが、日本からも長編・短編両コンペティションなどでいくつもの公式ノミネートが決まっています。
そのなかで今回、「おっ!」と目を惹いた作品がありました。コンペティションでなく、「ワーク・イン・プログレス(Work in Progress)」という部門で取上げられる山田尚子の監督による『Garden of Remembrance』という作品です。
製作はアニメスタジオのサイエンスSARUと同社代表取締役でプロデューサーのチェ・ウニョン、さらにアニメ製作会社エイベックス・ピクチャーズがクレジットされてます。
 
「ワーク・イン・プログレス」はアヌシーならの企画で、現在制作進行中のプロジェクトについて制作者が自ら作品を語るものです。毎年長編、短編、シリーズから選ばれますが、その数は多くなく、厳選されたものです。
「ワーク・イン・プログレス」部門で紹介され、その後コンペティションに選出される作品も少なくありません。本年は日本からは『Garden of Remembrance』と、Netflixから米国作品として出品されるシリーズ『ONI: Thunder God's Tale』(監督・堤大介/制作・トンコハウス)だけです。
 
なぜ今回『Garden of Remembrance』なのでしょうか? 
 
監督の山田尚子は、テレビアニメを出発に『けいおん!』、『たまこまーけっと』、『映画 聲の形』、『リズと青い鳥』と数々の傑作、ヒット作を担当しました。アニメファンにもよく知られた存在です。先頃発表されたアニメシリーズ『平家物語』も高い評価を受けています。
『Garden of Remembrance』は、散文のようなかたちで紹介ページにて概要を語っています。亡くなってしまった少女の友人とその友人が好きだったアネモネの花、そんな物語が漠然と読み取れます。山田の得意とする少女の感情の機微が描かれそうです。

『Garden of Remembrance』

今回さらに注目したいのは、作品が長さ15分の短編とされていることです。日本のエンタテイメントのテレビシリーズ、劇場映画で活躍する監督が独立した短編アニメーションを制作する例はあまりないはずです。
商業作品と考えるのであれば、短編はなかなか成立し難い企画だからです。企画や設定の開発には長編と同じぐらいかかりますから、映画の短さほどに手間とコストが少なくなるわけではありません。一方で劇場興行、ビデオソフト発売、配信、テレビ放送、どのメディアにおいても展開や収入は長編に較べて限定されます。
 
本作の制作会社であるサイエンスSARUは、ポイントのひとつにありそうです。山田尚子監督の前作『平家物語』の制作現場でもありましたが、サイエンスSARUはもともと湯浅政明監督の作品づくりのために2013年に設立されたスタジオであることはよく知られています。
その湯浅監督は2017年に『夜明け告げるルーのうた』で、アヌシーの長編アニメーション部門グランプリ(クリスタル)を受賞しただけでなく、毎年のようにアヌシーでノミネートされたり、フィーチャーされるスター的な存在でもあります。湯浅政明の現在の国際的評価とアヌシーは切り離せません。
そんな湯浅監督のアヌシーでの出発点は、2013年の短編『Kick-Heart』のノミネートでした。長年、湯浅監督と仕事をしてきたサイエンスSARUは、そうした活躍を隣でみてきたはずです。
 
これまでも活躍をしてきた山田監督ですが、長編映画やテレビシリーズは巨大なスタジオワークで、どこまでが監督の作家性か分かりにくいところもあります。
そこで短編です。作家性を知らしめるのは短編、そして世界のアニメーション関係者が集まるアヌシーで作品を語ることが大切と考えたのでないでしょうか。 
 
『Garden of Remembrance』は山田監督のキャリアの大きな転換点になるはずです。
それは山田尚子監督が、作家性を打ち出したアニメーションのクリエイターとして今後、世界に挑戦していくとの宣言にも見えます。
すでに十分な実績はありますが、実はそのキャリアはまだスタート段階なのかもしれない。ここからさらに重要な作品が生みだされていくのでは。
アヌシーにおけるトークセッションのひとつではありますが、『Garden of Remembrance』にはそんな期待をしたいと思いました。
 
アヌシー国際アニメーション映画祭 
https://www.annecy.org/
『Garden of Remembrance』紹介ページ
https://www.annecy.org/the-festival/official-selection/film-index:film-20228211

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