アラフォー上海留学日記【67日目】

5/3 金

昼過ぎ、屋上で昨日買っておいたヨーグルトを食べる。とりあえず今日はあのやかましかった古城に行ってみるか。暑いのか寒いのかよくわからない気候なので一応コートを持っていく。

昨日音楽が聞こえたあたりを通る。ビール瓶、山積。そりゃそうでしょうね、あれだけ盛り上がってりゃね。

今日も今日とて人が多い。古城はまるごと土産物屋街という感じで、ウイグルふうの衣装を着て撮影している中国人たちがとにかく多い。費用はメイク、撮影つきで500元くらいみたいだ。

なにか食べようとうろうろしている途中で、疲れと低血糖で体調が悪くなってきた。オレンジジュースを飲み、休み休み城を脱出。昨日羊盛り合わせを買った店になんとかたどり着き、鸽子面(ハトスープの麺)を食べた。8元、安い。ハトのダシがきいていて、ナツメとクコの実が滋味深く、やさしいお味。

宿に戻って血糖値が上がるまでひと休みしながら情報収集したところ、日曜日に羊や牛などを売るバザールが開催されているとのこと。土曜に上海に戻るので見ることあたわず残念だ。
体調が戻ったあたりでふたたび古城へ。観光客の少ない裏路地をぐるぐるする。生活の気配が見えてよい。乾燥地帯ならではの土壁、厳かな門、砂でくぐもった空気に映える色彩。どこをとってもべらぼうに写真映えする。そりゃ写真大好き中国人が集まるはずだわ。

食べ歩き第一弾は卵を焼いて辛いスパイスをかけたやつ。鲁菲奈の特産だと書いてあるが、それどこ?

小さなホウロウ鍋で煮込んだ羊スープ、内臓になんか詰めたやつ、ソーセージ的な辛い串などはじめて見る料理に心躍る。とりあえずザクロジュース10元を飲んだ。

ハト料理はカシュガルグルメのひとつ。丸焼きやスープにする。生きているときのハトは尾っぽがひらひらしている。ハトの餌も売っていた。

古城のなかは迷路のようで、自分がどこにいるのか把握するのにだいぶ時間がかかる。まあ城だしな。攻め込まれたときのためにごちゃごちゃしてるのは当たり前。あと、冬はかなり寒いらしく、防寒グッズもたくさん売っていた。

いったん城の外に出て、出たところにあった野菜の焼き包子を食べた。ヤオイーガ(一個ちょうだい)と言うとリャンガ(2個)とおばちゃんが言うので、一個だけ買えますかと質問したのだが、怪訝そうな表情をされた。一個わたされ、またリャンガと言われて、おばちゃんが言っていたのはリャンクァイ(2元)だとようやく理解。

当たり前だが、みんなふだんはウイグル語か自分の民族の言葉を使っているのだ。歩いていてもお店に入っても、わからない言葉しか聞こえてこない。中国語が通じるほうがおかしな話なのだ、と肌身感覚で理解すると、バカでかい毛沢東像が空虚でもあり恐ろしくもあり。

三輪車の植木売りのおじさんが通りかかり、誰が買うんだと思いきや、バイクで横付けして買っているマダムがいて驚いた。そんな感じで買うんだ、植木。

地下道には出店が。地元の人が集まる通りを流していると、ついに中国語が書いていない看板を見つけた。一気に心もとない気持ちに。

しばらく歩いているとまた古城エリアに突入した。当然のごとく荷物検査をして中に入る。荷物検査はもう慣れた。銅鍋や銅のやかん? 水差し?などがかわいかった。
格瓦斯(クワス)があったので買う。ロシアの飲み物かと思ってたけど、ここらへんでも飲むんだ。

古城エリアを出て、スーパー(彩贝乐超市)を目指す。途中の道が、なんかやっぱりインドに似てるんだよな。商店の並び方とか。

彩贝乐超市は、めちゃくちゃおもしろかった。ウイグル特産の宝庫なので、カシュガルに来たらぜったい行ったほうがいい。ザクロジュースがほしかったけど、さすがに持って帰れないので泣く泣くあきらめた。

スーパーの隣は喀什艾提尕广场。古城とは打って変わって、東アジア顔系の人がぜんぜんいない。中央アジアっぽい音楽が流れ、土埃が舞い、もわっと地面から暑さがこみ上げ、人がやたらと集まっている。やっぱりインドを感じる雰囲気だ。すごい疎外感。居場所がなさすぎて、上海に帰りたくなってきた。東京じゃなくて上海に帰りたいと思ったのが意外。
子供たちがバルーンみたいな凧を上げまくっており、空中に透明なバルーンが無数に浮かぶ白昼夢みたいな光景にめまいがした。

広場のトイレがめちゃくちゃ臭くて、みんな鼻をつまんでいた。ドアが壊れているオープントイレで用を足している人がいてビビる。一応、連れの人がドア代わりに立っていたけど、丸見えなので即目をそらした。

屋上カフェと書いてあったカフェに入る。おしゃれだ。屋上ありますかと聞いたが、ないという。どういうこと? 同じ階にほかも店があるってことだろうか。
アイスコーヒーに豆と果物の乾物がついてきた。コーヒーも付け合わせもおいしい。ベランダではアーティストが店に飾るコーヒーの絵を描いていた。いい店だ。

隣の客の会話から、ウズベク、タシケントという単語が聞こえて、おお〜となる。タジク、とも言ってるな。日常会話に出てくるくらい近いってことだ。一気に自分がいまいる場所を世界地図上で俯瞰したきぶんになり、グッときた。すごい、中国とタジク、ウズベクの国境らへんにいるんだ。そこの空気を感じているんだ。これはすごいぞ。地図帳を眺めていたころの自分に言いたい、41歳で行けるよと。

19時になったので、1kmほど先の亚瓦格街道跳蚤市场に夕飯を食べに行こうとしたが、あと一息というところでクラクションと大渋滞の交差点に心が折れてしまった。たぶん、異国すぎて情報量の多さに参っていたんだと思う。あと土埃と暑さ。
無理はしないと決めているので、折り返して、途中で見かけた、おじさんがちゃきちゃきと注文をさばく姿が印象的だった繁盛店(亚瓦格古老凉纷凉皮店)で凉皮をテイクアウトした。7元、安すぎんか? 聞き間違えてないよね?

宿への帰り道で、派手に飾った車の列に出くわした。先頭車には荷台で太鼓をたたく人が乗っている。結婚式かなにかだろうか。

宿の屋上でいざ凉皮を食べる段になり、箸がないことに気づく。フロントの子いなかったし、近所の店に箸売ってもらえませんか、と頼むしかないか…と外に出ようとしたところで、フロントの子が帰ってきた。なんなくお箸ゲット。よかった。
凉皮は大正解だった。凉皮のほかに細麺と細切りにした油揚げみたいなのが入っており、3種の食感を楽しめる。めちゃくちゃ辛そうなタレがのっているので覚悟したが、ぜんぜん辛くなくて唐辛子の旨味だけ感じる。なんだこれ、良すぎる。スーパーで買ったレッドブルみたいなドリンクとともにいただく。

日が暮れる前、21時ころにふたたび亚瓦格街道跳蚤市场へ。川の近くでもまたライトアップとズンドコ音楽が爆音で流れている。カシュガル、お祭りが過ぎる。
市場には服飾市場も併設されていたが、そっちは暗めでちょっとよくない言葉っぽいのを投げかけられたので危機感を覚えて早々に退散。同じく東アジア人のご夫婦を見かけたが、妻が夫の腕にしっかりしがみついていた。やっぱりここは異国なのだ。そこに通底するコンテクストがわからない異邦ものであることを、ちゃんと認識して行動しないといけない。

羊の脚を12元で購入。宿の近くのクラフトビール屋に寄り、持ち帰りたいから瓶か缶はないかと聞くと、店のお兄ちゃんが、生もペットボトルに入れて持ち帰れるという。ペットボトルに? まじか。
IPAが好きなんだけど選び方がわからないと告げ、試飲させてもらう。試飲したものがおいしかったので、沙尘暴双倍浑浊というIPAの生をペットボトルに入れてもらった。カシュガルでいちばん高かったのがこのクラフトビール45元なり。隣りにいたおじさんにどこの人?と聞かれ、日本だと言うと、ひとりで来てるの?とおどろかれた。

羊の脚は骨の周りのゼラチン質をこそげ取って食べるものだったので、手がベトベトになったが、きっと明日は肌の調子も良いことだろう。シャワーを浴びて砂埃を落とし、余ったビールをまた屋上で飲む。ここの屋上からの光景が、私がいちばん見たカシュガルだ。

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