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【短編ホラー小説】短夜怪談「廃墟の警備員」

あるスーパー跡地に肝試しに行った。
何の云われも無いただの廃墟だから、実のところ肝試しもへったくれもない。時間も、そろそろ夕方に差し掛かるかという昼間の時間だ。明るい。いかにも地域密着型のスーパーだったと思しき建物に物は無く、薄暗いが無数の棚が朽ちているだけ。諸行無常ってこういうことかー、なんて柄にも無いことを考えてぶらぶらしていたら、不意に目の前が明るくなる。顔を上げたら、警備員の制服を来たおじさん。懐中電灯をこちらに向けられていた。眩しかったのは、その光。
「君、どうしたの?こんなところで」
「へっ」
こんな廃墟にも見回りがいるなんて。素直に説明したら、軽く怒られた。
「ダメだよー。管理者はいるんだから」
「すみません」
一緒に外に出たら不問にすると言われ、大人しく従う。広くもないし、そんな奥まで入ってないから、直ぐ外に出た。
「良かった良かった。奥は危ないからね」
「奥ってそんなに崩れてるんですか?」
好奇心で聞いたら、おじさんは苦笑いしながら唸った。
「そうだねぇ。帰れなくなっちゃうね。俺みたいに」
おじさんにとん、と背を押され、敷地外へと出る。
「えっ」
直ぐ振り向くと、真後ろにいたはずのおじさんはいなくなってた。出入り口は一つで、それもボロボロに壊れて見通し良くなってるから、隠れる場所も無いはずないのに。
「もう来ちゃダメだよ」
姿は見えないのに耳元であのおじさんの声に囁かれ、飛び上がる。その勢いで、あとは振り向きもせず、真っ暗になっていた道を走って帰った。

後日、ネットであのスーパー跡地のことを調べ直すと、警備員の目撃情報はあったが、同じ時間帯でも見た人と見ていない人に分かれていた。管理者の詳細は、分からない。閉店後にも事件事故が無かったはずのただの廃墟に、警備員を置き続けていることが一番怖い。その警備員、本当に実在してんの?というコメントまで見たところで、調べるのを止めた。

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