中根すあまの脳みその209

日々に大きな波を感じる。
波線のグラフような調子で、ぐわあんと上がったり下がったり。
上がりきるまで下がらないし、下がりきるまで上がらない。故に、調子が良いときはその終わりを想像して怯え、調子が悪いときにはその終わりに希望を見出す。まったく人間というのはままならない生き物である。
自分が今、奈落の底へ落ちている途中だという自覚があるとき、一体どこまで落ちれば底にたどり着くのか、これが底だと思いきや、まだ振り落とされ、振り落とされ、底はどこだどこだ、と藻掻く。落ちきらねば上がれないのだ。
それが、わりと、今なのである。

なにも今、私はここでそんな後ろ向きなことを綴りたいのではない。
私と同じように人生グラフ絶賛降下中の人間たちに是非ともおすすめしたいことがあるのだ。
まるで絶叫マシンのような急降下でも、事故なく穏やかな心で乗り切れる、そんな魔法が存在するのだ。
それが私以外の人間にも適用するのか少々不安ではあるが。

人生の急降下を実感したとき、一度でいい、騙されたと思って「プーさんのハニーハント」の音源をきいてみてほしい。そう、某夢の国の人気アトラクションである。
私の使っている音楽再生アプリは馬鹿真面目に歌詞まで表示してくれるので、それを参照しながらきくことでその効果はより確かなものとなる。
敢えてアトラクションの視覚的な楽しさを排除した状態にすることで、あの熊の阿呆さ加減が際立ち、現実の世知辛さなんでどうでも良くなってしまうという算段だ。

アトラクションは、プーがクリストファーロビンに、風船が欲しいと言うところから始まる。当然クリストファーロビンはプーに、なぜ風船がいるのかと聞く。するとプーは、

「はちみつとるの」

と、確固たる口調で言い切る。

「風船じゃ、蜂蜜はとれないよ」

子どもであるクリストファーロビンの放つ、呆れたような一言がたまらない。開始10秒でこれである。私などはもう、このやりとりからでしか得られないエネルギーのようなものを実感してしまっている。

その後風船を手に入れたプーは風船に捕まってあろう事か空を飛びだす。

「蜂蜜のところまで飛ぶよ、蜂みたいに」

おそらく”蜂みたい”ではない。

「ああ大変だ。こんなことになるのも蜂蜜が大好きなせいだ」

ここで不覚にも甘酸っぱい気持ちになる。
だってあまりにも、それは、恋だ。
しかし、騙されてはいけない。
風船に乗って蜂蜜を取りに行くというあまりにもトリッキーな手段を選んだのはだれでもないプー自身なのである。
責任転嫁も甚だしい。
まったくこの熊は。

その後の自信過剰な虎の登場は一旦置いておいて(この虎にもいろいろ言いたいことはあるが)、プーは蜂蜜への愛情のあまり意識が飛んでしまう。中毒だ。愛情は行き過ぎると深刻な中毒症状を引き起こす。
ここからは音楽に注目してほしい。
ラリってしまったプーの幻覚のような世界観を表現しているのだが、どうにも音楽がお洒落すぎる。それが、音源としてきくことにより一層際立つのだ。心が潤う。
しかしながら、この場面で繰り返される「気をつけろ」というセリフには得体の知れない恐ろしさがある。気をつけて生きたいものだ。

そして、幻覚から目覚めたプーは世にも幸せそうな表情(であろうことが予想される声色)で蜂蜜を頬張っている。
このプーの声ともいえない声をも歌詞として表示してくれる音楽アプリの有能ぶりを味わっていただきたいので、スクリーンショットを添付する。ふうんにゃ。

そんな言葉初めてきいたよ

そしてうきうきと歌い出す。
「はーちみつがだいすっき、たーべるんだっ!おいしー!」

うん。
そうだね。
それでいいよね。
正直、蜂蜜食べたさに意識が飛んじゃうなんてシャレにならないけどさ、私もう、君が幸せならそれで、それでいいよ。

そして我が身を顧みる。
それでいいのだ。
私だってきっと。
好きなものを食べて、好きなものを身につけて、好きな人たちと過ごす。
それだけできっと、人生は上々だ。
ありがとう、プー。
でもさ、とりあえず、病院行った方がいいと思うよ。

この魔法を使う際に、ひとつだけ注意点がある。それは、一日に何度も続けてきかないことだ。どんな薬も使用頻度を誤ると効果が薄れる。それはハニーハントの魔法も同じで、だんだん熊の阿呆さ加減に、いいよなあ熊は人生楽で、と卑屈な気持ちになってくるのだ。
お試しの際には気をつけてほしい。

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