中根すあまの脳みその185

先日出演したライブで劇団の告知をした際、出番後の解放感からか、なんだか気持ちが大きくなっていた私は、劇団塩豆大福という劇団を主宰していて、これがまあ、私の命より大切な存在なんですが、などとこれまた大きいことを言ってしまった。私は、いや命の方が大事でしょ、や、さすがに大袈裟すぎ、というツッコミがあるものとしてその場に立っていたが、一向にその気配はなく、後ろの出演者たちからは、ほお〜、という声のみが聞こえる。予想外の反応に思わず、ほお〜って、とつぶやくと、出演者のひとりが、いや、素敵だなあって、と言った。
その方から私を馬鹿にする意図は感じず、ただただその瞳が綺麗だったので、私は少し気恥ずかしくなった。

それを誤魔化すように私は、
春になったら良い発表ができるかと思いますので!、と声を張り上げる。しかし、言い終えて思い立つ。今日だって、大概春だ。
私は慌てて、もう少し春になったら!と付け足すが、もう少し春ってなんだ?と思い、あの、今も十分春なんですけど、まだちょっと怪しいので、もっと確実に春になったらです!とさらに付け足す。確実に春…?と、出演者たちの戸惑いの声が聞こえる。
空回りの、春。

春の訪れと髪の毛の伸びるスピードというのは似ている。どちらも、急だ。同じ種類の"急さ"がある。
別に忘れていたわけではないのに、あたかも今まで忘れていたかのように、急に実感するのだ。

あれ、春じゃん。
あれ、髪伸びてるじゃん。

夏の訪れと体重の増加にはないような、虚をつかれたような衝撃が、そこにはある。
えっ、もうこんなに。

そんなことを考えながら、冬物の上着を着ずに外へ出た。普通に寒かった。時間がなかったのでそのまま上着を取りに戻らず強行突破したら、その日は1日寒かった。
そう、春は人を簡単に裏切るのだ。
私がライブのときに話した、確実な春が訪れたら、という言葉の正しさが、はからずもここで証明されたのだった。

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