中根すあまの脳みその23
わたしは、おばけを信じない。
もし本当におばけがいたとしたら、おばけの存在を確認した国の偉い人が会見をして、あっという間に世界中に広まるはずだからだ。
おばけを始めとしたオカルト的な要素を含むあれこれは、人々のロマンのために真相がぼかされており、実際には、落ち着いて考えれば理由がわかってしまう話ばかりであるとわたしは思う。
こんな調子でわたしは、人々が「信じるか信じないか」で別れるたぐいの話は、大抵信じない。信じられない。
修学旅行の就寝班にいたら場をしらけさせてしまうタイプの人間だと自覚していたりもする。
そんなわたしだが、昨日の夜、ある恐怖に囚われてなかなか寝付けなかったのだ。
目を閉じていても、意識がはっきりと覚醒していて睡魔の波に乗れない。聴覚が研ぎ澄まされ、聞こえるのは時計の秒針の音と、冷蔵庫のモーターの音、そして
カタッ
なにか物音が聞こえる。
1階からだ。我が家の2階は吹き抜けになっていて、1階の音がとてもよく聞こえる。
胸騒ぎがする。家族はもう寝静まっていて、物音がするような出来事は起こらないはずだ。
わたしは、心霊現象などの科学的根拠のない話は信じない。ただの家鳴りだろうと、ざわつく心臓に言い聞かせる。
ドタ、ドタ、
階段だ。心臓が冷たく早く脈を打つ。
誰かが、何かが、階段を上がる音。その鮮烈な響きに、脳みそは思考を停止し、心臓だけが忙しく鳴っている。
ドタ、ドタ、ドタドタドタドタドタ、
わからない。近づくこの音を連れてきているのは一体何者なのか。
ただひとつ確かなのは、静かに終わりをむかえようとしていたわたしの平凡な1日が、まったくもって平凡ではない展開を見せようとしていることだけだった。
わたしは、静かに思考を停止させたまま、迫りくる恐怖に対してどうすることもできずにいた。
ギギ…
わずかに光りが漏れる。反射的にそちらに目を向けると、ドアが少しずつ開いていくのが朧気ながら見て取れた。
自分が置かれた状況のあまりの不条理に、激しいめまいをおぼえる。
ぬっと近づく気配。
わたしはすべてを諦め、そっと目を閉じた。
サクッ
下腹部辺りに冷たい感覚。
後から襲ってくる激痛に思わず顔をしかめ、薄目を開けると、そこには眩しく輝くナイフを持った、
見ず知らずの男が、いた。
みたいな展開を妄想してしまうんですよね、わたしは。
だから、少し物音がしただけでも脳内は「深夜の無差別一家殺害事件」。
言わずもがな、両親と妹も被害者に。ごめんねみんな。
一通り事件像を思い浮かべたころには、睡魔が襲ってすやすやおやすみ。
何より怖いのは、おばけよりも人間だよねって話です。
まあ、わたしはもう、目を覚ますことはなかったんですけどね。
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