中根すあまの脳みその107

ドラッグストアでバイトをしていた頃、全てのレジを開けても行列ができるくらい混雑している時間帯と、店内が静まり返り不気味な程に空いている時間帯の、差の激しさに何度も驚かされた。混雑時は行列が途切れるまでこれでもかと客が押し寄せ、尚且つカートには溢れんばかりの商品がのせられている。あまりの忙しさに目は回るが、ろれつは回らなくなり、「ポイントカード」という単語がうまく発音できなくなった頃、突如として静寂が訪れる。数秒前の喧騒はまるで幻のように消し去られ、客足は完全に途絶える。やっとレジに並ぶ人が現れたと思えば、手にしているのは牛乳一本のみ。冷蔵庫にフルーチェを発見したが、牛乳を切らしていた。だがしかし心はもうフルーチェを食べる準備を済ませてしまっている。仕方がない、近所のドラッグストアに買いに行こう。というような佇まいのその客は、滞在時間わずか2分で店を出て行ってしまった。響き渡る陽気な店内BGMと、売り場に設置された小さいモニターから聞こえる、謎の栄養ドリンク「モアビタンEX100」の有効成分を叫ぶ知らないおじさんの声で、気が狂ってしまいそうな程に暇である。その時私は思うのだ。バランスを考えてくれ、と。そう、バランスが悪すぎるのだ。もっと自然に、満遍なく買い物に来てくれればいいものを、人々はなぜか、示し合わせたように同じタイミングで現れ、同じタイミングで去っていく。その様はなんだか、科学では証明できない強大なものの存在を感じさせるようで、気味が悪い。

私がドラッグストアのバイトをやめてからもうかなりの時間がたったが、今日ふと、このことを思い出した。人間の一生もまた、そんなものである。人生楽あれば苦ありとはよく言ったものだが、そのバランスは非常に悪い。極端である。ひとつ良いことがあれば、運命は示し合わせたように、楽、楽、楽、楽と立て続けに奇跡を起こす。今日は一日休みだ(楽)。その上やるべき課題はすべて終わらせている(楽×2)。なんとなく冷蔵庫を覗いたらお気に入りのアイスがあった(楽×3)。Twitterを開いたら昨日リツイートしたファミチキプレゼントキャンペーンに当選している(楽×4)。例えば、このような調子である。些細なことだが、これは紛れもない奇跡の連続である。しかしその後、状況はあっという間に逆転する。これでもかと、苦、苦、苦、苦。負の連鎖が負の連鎖を呼び、その厳しい現実に、ファミチキにぬか喜びしていた自分に激しい嫌悪感を抱く。その様はなんだか、科学では証明できない強大なものの存在を感じさせるようでいて、気味が悪い。

そう、バランスが悪すぎるのだ。この世はきっと、常にどちらかに傾いている。
そんなことを考えながら今日も1日が終わっていく。

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