中根すあまの脳みその234

よく利用する駅の構内にあるカフェが、セルフレジ形式になっていた。
店の外にレジがあり、そこで支払いをし、店内で注文したものをうけとるというシステム。
次の用事までかなり時間が空いてしまった、ある午後、セルフレジ形式に変わってからはじめてそのカフェを利用した。
レジは2台。
1台にお洒落なマダムの2人組。
もう1台に20代半ばくらいの男の人。
それぞれがタッチパネルを操作している。
その後ろで順番を待つ。
様子を見ているとどうやら、マダムたちはレジの操作に手こずっているようである。
賑やかに響いていた会話が徐々に、戸惑いを帯びたものになる。
なにか声をかけるべきかと迷い始めたそのとき、支払いを終えた男の人が、すっと横にずれ、マダムたちに話しかける。
やり方わかりますか?
その流れるような一連の行動に感動しつつも、なにも出来なかった自分に少しの情けなさ。
財布を出して、空いたレジの前に立とうとしたその時、
あの、とその人が今度はわたしに話しかけた。
戸惑いつつも目を向けると、彼は下を指さしている。
その先に視線を移動させるも、なにを示しているのか分からず、きょろきょろとしていると、彼は笑って一円玉、と言う。
え?!
ああ、
足元にひっそりと一円玉。
地面の色と同化していて気づかなかったのだ。
あ、アリガトウゴザイマス
他人の前で、最高に間抜けなきょろきょろを披露してしまった恥ずかしさで口が回らず、半角カタカナの喋り方をしてしまう。
彼はその後、マダムたちに親しげに、かつ、丁寧にレジの操作を教え、颯爽と店の中に消えていった。
同時にふたつの思いやりを、さも当たり前であるかのようにスマートにこなしたその人は、まるでヒーローのようだった。

自分も会計をすませて、席に着く。
横並びのカウンター。
となりには、スーツを着た年代の違う男性の3人組。それぞれがパソコンを開いている。
目線を画面に留めたまま、テンポの良い会話を続けているため、彼らが仲間だと分かる。
キーボードを叩く音と、的確な相槌、時々混ざる軽快な笑い声が、なんとも言えず心地良い。
そして、彼らがよい関係性であることが、たまたま隣に座っただけのわたしにも察せられた。
そろそろ行くか
いやもうちょっと粘りたいす
時間は?
意外と余裕
それぞれ別のことをしているのに、意識は同じところを向いている。
やがて、席を立って店を出ていく彼らの足並みも、やはり、綺麗に揃っていた。

何気ない場所にも、にんげんっていいな、と思える瞬間はたくさんある。
そんなことを思えた午後だった。

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