中根すあまの脳みその183


5時半起き、絶不調の朝。
当たり前に時間は、電車の出発時刻の2分前。自転車を停めてすぐさま駅前ダッシュをキメれば間に合う。いや、間に合わない。確率は五分五分だ。ごぶごぶ。溺れているみたいな語感。
諦めるのにはまだ早い。
走りたくはないが、仕方なく覚悟を決める。
段差。勢い余って軽くジャンプ、したはいいものの、私の足腰はなんの準備もできていなかった。耐性ゼロ。その時の私はきっと、脳みそは起きていたが、足腰はまだ寝ていた。
当然、そのまま崩れ落ちる。
背負っていたリュックが、ランドセルをしめ忘れたままお辞儀した小学生さながら、私の前方におどり出る。幸いリュックはしまっていたからいいものの、でんぐり返しの出来損ないのような格好で道端にはじき出された私は、どう考えても全世界の笑いものだった。

ふと脳裏をよぎるのは、高いところから飛び降り、見事に着地をする猫の姿。どこかでそんな動画を見た気がする。猫の習性だかなんだかで。もし私が猫だったらきっと、仲間の信頼を失っているだろう。というか、私は猫にはなれないことが今わかった。というか、私は人間のくせに猫以下ということだ。

あの、崩れ落ちるときの無抵抗さといったら!
私はなんだか楽しくなってしまった。

目の前には、信号待ちの人の群れ。
ポーカーフェイスを貫いているが、心の中では笑っている。本人も笑っているのだがら、当たり前だ。むしろ笑っててくれ。
足早にそこから立ち去りなから、立ち去るその姿すらも間抜けだと思う。
朝6時に待つ信号など、多くの人々にとって憎き存在だろう。
彼らの心が少しでも和んでくれたなら、私は世界の笑いものでも良い。

それはちょっと見栄を張ったが、そういうことにでもしておかないと、さすがに無理そうだった。だって、たぶんこれは、電車に間に合わない。
あの時間があったから、電車に間に合わないのだ。情けないだけのあの時間があったから。
なにかしらの意味を持たせないと、無理だ。
たぶんこのまま家に帰ってしまう。

案の定、目の前で過ぎ去った電車。
勢いのままに遅刻の連絡をして、ひといき。
このまま20分は待たなければいけない。
諦めと共に、束の間の平穏が訪れる。
顔を上げると、雲ひとつない青空が広がっていた。

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