中根すあまの脳みその152

ギャルの友人のトークには相変わらずキレがある。
半年前くらいに、ここで、同じ友人について綴った記憶があるが、彼女にばれるまでは定期的に記録を続けていきたいと思っている。

久々に会ったギャルは、脱色しすぎてもはや何色かわからないハイトーンの髪を落ち着いた色に染めていて、一瞬誰だか分からなかった。私も最近、同じように髪の毛を暗い色に染めたが、周り人間はこぞって、就活?と聞いてくる。実際、この時期にはそういう人が多い。そのため私は、ギャルの髪の毛を見て、一抹の不安を感じた。彼女も、スーツを着て、髪をひっつめて、長所とも捉えれるような短所を得意げに語るのだろうか。
心の底から、思う。
私は彼女のそんな姿を見たくない。

「就活…」
会話と会話の間の、一瞬の沈黙、彼女が口走る。思わず私は身構える。
ショックを受けるのはやめよう。彼女には彼女の人生がある。どんな道だとしても応援すべきだ。そう思っていると。
「なんもやってねんだよねwww」
私は、「w」で笑いを表すことに抵抗がある。しかし、ここは敢えて使わせてもらおう。ギャルへの敬意を込めて。
相変わらず爆発力のあるその言葉に、胸がわくわくしてくる。
じゃあ、髪の毛は?私はそう尋ねた。すかさず彼女は口を開く。
「ちぎれてどっかいっちまったんだよww」
だから生え変わんの待ってんの、そう彼女は言った。そして私を指さして一言。
「てか、そっちもじゃねww」
ギャルの友人は、とことん期待を裏切らない。いつ、どんな時に会っても、期待の5倍は上回る切り返しを披露してくれる。

「てか、夏休み遊び行かね?」
突然の提案に、緩みきっていた頬が強ばる。
誘ってくれたのはとても嬉しいのだが、彼女はギャルだ。普通の飲み会なら良いが、
クラブか、海でのバーベキューか、はたまたナイトプールか。そういった類の、私が決して足を踏み入れることのない領域に、半ば強引にいざなわれるような気がしたのだ。
シーシャ屋さんに連れていかれ、チルとか言われたらどうしよう。
友人のことは好きだが、そういった娯楽にはどうしても抵抗がある。戦々恐々としながら、しかし、それを悟られまいとしながら、あそぼあそぼ、と返事をする。
「あそこ行きたいんだよね、ウチ、あの、」
あの…?
「あの、ほら、」
ほら…?
「藤子・F・不二雄…」
は?…藤子・F・不二雄…ミュージアム?
「そうそこ!めっちゃいきたい!」
…案内するよ。

彼女の切り返しにはいつも笑わせてもらっていた。しかし、ここまでくると、なにかシンパシーのようなものを感じる。
さてはこのギャル、血液の成分が私と何パーセントかだけ、同じなのかもしれない。
感覚が変なところで似通っている。

私が変な感慨を覚えていると、いつの間にか彼女の手にはドーナツが握られていた。某ドーナツチェーンの新作のようである。
新作はついつい買ってしまうから困る。
そんな話をしながら、それをひとくちかじった彼女の顔が、たちまち、苦痛に歪む。
えっ、えっ、大丈夫?
「…マヂさいあく。これ。みて」
そう言って彼女が差し出したドーナツは、表面から見えないところに、ごろごろとドライフルーツが練り込まれていた。
「ウチ、これ、許せないんだけど」

ギャルが、ドライフルーツにキレていた。
ギャルが、真剣に、ドライフルーツにキレていた。

彼女の怒りが十分すぎるほどに伝わった。
しかしそれは、爆笑となって喉から放出される。人間の場違いな熱量というのは、いつだって人を笑顔にさせるのだ。そして、その笑いにはきっと、共感も手伝っていた。
私もまた、ドライフルーツが無言で放り込まれている状況に憤りを感じているひとりだからだ。
わかる、わかるよ、私は断続的にやってくる笑いの波をやり過ごしながら、同意していることを伝えようと努力する。
しかし、彼女は私の方など見もせずに、なにやら携帯の画面をスクロールしている。
その急な関心の失いように、そうだ、彼女はギャルだったと思い出し、寂しくなる。

例え、似通っている部分があろうとも、ギャルはギャルなのだ。
そんなことをしみじみと考える。
やがて、彼女の腕がこちら側に伸びてきた。
どうやら携帯の画面を見せようとしているらしい。無言で、どこか苦々しげな表情で、私に携帯を近づける。なにもわからぬまま、それを覗き込むと、そこには、

りくろーおじさん。

大阪名物、りくろーおじさんのチーズケーキの写真があった。それを認識した瞬間、私はすべてを理解する。なにも言わなくても、伝わっていた。私の心も、彼女の心も。
あえてその心はここには書かない。
りくろーおじさんの写真を無言で見せた彼女の思惑。気になる方がいたら、ぜひ、その詳細を調べてみてほしい。食べたことがある方だったらすぐに読み取れるかもしれない。
これはギャルと私の、秘密なのだから、大きな声では言わないでおく。

この夏のたのしみがひとつ増えた。
彼女に藤子・F・不二雄ミュージアムを案内する日が楽しみだ。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?