中根すあまの脳みその66

どんなに意志の強い人間でも、睡眠中の行動までは制御できないものである。

私は、電車の端の席が大好きだ。もし、座ることができたなら、電車の中という公共の場でにやにやすることを避けられないくらいに好きだ。知らない人に挟まれなくてよい上に、頭を預けて眠ることができる。終点まで乗ることが多い私の場合、電車の中で快適な睡眠をとれるのは非常にありがたいことなのである。
だが、混んでいる時はなかなかそうもいかない。今か今かと正面のサラリーマンが降りるのを待ちわびて、やっとの思いで座れても、だいたいは他人と他人の間に体をねじ込むことになる。
そんな時に限って恐ろしい勢いでやってくるのが、そう、睡魔だ。
「眠いな」と思ったときにはもう遅い、あっという間に首ががくんと折れ、思考が停止する。
もうこうなってしまったら、どれだけ舟をこごうが、隣の人に体重を預けようが、知ったこっちゃない。どれだけ意志の強い人間だったとしても、だ。
案の定、隣の人にもたれかかる体。眠っている私にはそんなこと、知る由もない。
すると次の瞬間、
パシン!!!
物凄い衝撃に、わけのわからぬまま覚醒する私、視界には「世にも醜いものを見てしまった」と言わんばかりの表情をした、隣の席の女性。
静かに、すべてを悟る。
あ、この人に叩かれたんだな。私が、もたれかかっちゃったから。
羞恥と申し訳なさが押し寄せてくる。ごめんなさい、迷惑でしたよね。緑の髪の毛で、餃子のイラストのTシャツを着た、得体の知れない小娘がもたれかかってきたら、そりゃあ嫌ですよね。
気分を害してごめんなさい。
ひと通り、懺悔(in心の中)が終わったところで、ハッと我に返る。
…叩くことなくない?
いくらもたれかかってきて腹が立ったとて、叩いたらそれはもう暴力じゃない?立派な暴力じゃない?
叩かないで、そっと遠ざければよくない?ぐいって、すればよくない?え、そう思うのは私のわがままですか?
…てか!!何その顔!!
その目は、人間に向ける目じゃなかったよ…。
湧きたつ怒りはやがて、悲しみに姿を変えてゆく。こんなにも感情が忙しい数秒間が、いまだかつてあっただろうか。
私が悪かったよ、でも、でもさ、そんな叩くことないじゃない。たしかに邪魔だったかもしれない、でも、だからといって、そんな汚物を見るような目で…(以下略)。

どんなに意志の強い人間でも、睡眠中の行動までは制御できないものである。

忙しくても、腹が立っていても、体調が悪くても、このことを忘れずに生きていこうと思う。
もし私のもとに、睡魔に敗北せし者がもたれかかってきても、天使のような気持ちで受け止めることを誓った、11月の今日であった。


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