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すあまのたんぺん

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中根すあまがかいた短編小説たちです。
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記事一覧

「おぞましい」

言うなればそれは「おぞましい」であった。 その言葉のもつ意味の全てが、そこには広がってい…

中根すあま
10か月前
11

僕のミラクルビラ配り

ビラ配りをしていた。 僕の居場所が、なくなるかもしれないという知らせを聞いたからだ。 そん…

中根すあま
10か月前
6

うらうらうら

桜って、別にピンクじゃないじゃないですか。あれ、本来、白なんですよ。まあ、ピンクの桜もあ…

14

鰯に学ぶことなんて、ない

まるで水族館の巨大水槽に放り込まれてしまったようだ。酸素ボンベはない。呼吸ができる回数が…

38

ほていをつぐもの

「神様みたいなお仕事だと思います」 何の脈略もなく突然現れた、素性の知れない客がそう言っ…

14

ばっきゃろー

太陽の光は人間の体に深刻な健康被害を与える。 人気バラエティー番組の放送が打ち切られ、突…

12

ある病室

この国から人がいなくなった。 厳密に言えば、隠れた、の方が正しいのだが。 窓から外を見ると、その殺伐として美しい景色にふわふわと見入ってしまう。 やっぱり、隠れた、より、いなくなった、の方が合っていると、そんなことを思う。 「なんだ、お前も隠れるのか?」 からかうような声。 「隠れませんよ、ぼくは。この体で、無理やり隠れたところでその先はありませんし」 「やっぱりそう思うよなあ。でもさ、この病院からも大勢の患者が隠れたわけで。看護師をSPみたいに何人も従えてさ。おかし

さんたのふくがあかいわけ

ぴろりん。 俺のケータイが震えた。すかさず電源を入れる。 通知欄には『山城もも』の文字。推…

13

かみさま

「おそいのねえ。今、帰り?」 ドアの横にもたれて立っていたおばあさんが僕の目をじっと見つ…

8

うつくしい

うつくしいと思った。 うるんだ奥二重の目、瞳は黒々として澄んでいる。真珠を纏っているかの…

5

休校

『あ、おはよ』 『おはよ。あれ知らないの?』 『知らないのって?』 『いや、休校』 『知って…

10

まほうだよ

花火が、すきだった。 それは、夏の夜に咲く一瞬の夢であり、わたしをどこか遠い世界に連れて…

17

彼とカツカレー

今日は日曜日。 目が覚めて3秒で顔がにやけてしまったのは、今日がとっても幸せな日になると確…

17

狭間

目が覚めたら夢だった。 自分が存在する世界が現実であるような気もするし、夢であるような気もする。 なぜだかぐわんぐわんしてまとまらない頭で考えたのは、これは夢と現実の狭間なのではないか、ということだった。 もうすこし意識が覚醒すれば、いつも自分が存在している世界、あまりにも忙しなく世知辛い世界、にもどってしまうような気がしたのだ。 ひとつおかしなことがあった。それは、今ここに存在しているぼく、という生き物が、どのような過程をたどってここに至ったのか、よく思い出せないのだ。これ