- 運営しているクリエイター
#エッセイ
中根すあまの脳みその244
たらふく酒をくらっても尚思考がはっきりしていて、まるでそれが決まりきっているかのようにパソコンをひらいた。ここ数ヶ月、私が、どれだけ願っても叶わなかったことだ。
起動するのを待つ間、
なにくそ、ぜったいに今、この時間で蹴りをつけてやると、脳内で1億回反芻し、そこからひと息、ひとくちで大きな怪獣を丸呑みするように、物語を完結させた。
我ながら大袈裟だと思う。
そんな、大層な作品を書き上げたのか。
中根すあまの脳みその243
とある事情で、視力を矯正せずに1日を過ごした。
わりと、目は悪い方なのだと思う。
強めの近視と乱視が小さな眼球の中でせめぎ合っているのだ。
めがねもコンタクトも付けずに過ごす1日は無論、不便で、それはそれは難儀なものであったが、それと同時に、非日常感に彩られた景色は新鮮で、12時間の労働を心折れることなく終えることができたのも確かだ。
戦闘能力は下がる。
それはそうだ。目が見えていないのだから。
中根すあまの脳みその242
脚本が完成しない。
公演と公演の期間を狭めたくて、気が緩まぬよう意識していたここ3ヶ月だが、一方で様々な要因により生き方も環境もガラッと変わってしまい、それに適応することに長い時間を要してしまった。
この時間が必要なものだったと、笑顔で言い切る自分が見たいと心底思う。
予定のない日は休むことに必死になってしまう。朝から、睡眠、睡眠、食事、睡眠、睡眠、飲酒、睡眠、といったこの世の終わりのような時間
中根すあまの脳みその240
24時間100円の駐輪場に自転車を停めて旅に出る。
定期契約をした方が安いのはわかっているのだが、定期の駐輪場は駅の入口を少々過ぎ去らなければたどり着けず、一分一秒を争う私の朝には寄り添ってくれないのだ。
故に、24時間100円の苦しみを受け入れ、駅の手前にあるその場所に自転車を停める。
そしてその事を、呆気なく私は忘れる。
月末までのお財布空っぽ生活を約束されている私には無論、経済的にも精神的
中根すあまの脳みその239
バイト先の掃き掃除をしていたら、
ちりとりの中に花びらが舞い込んできて
君はゴミではないよと思いつつ、どうすることもできずにそのまま捨ててしまった。
ふと目線をあげると春であった。
桜が咲いている。
花見がしたいなあ、と毎年うわ言のように言っているが、それが実現したことはない。
散りゆくその花に焦りと後悔を覚えつつ、そのままにして過ごす。
花見がしたいという気持ちがあと少しだけ強かったら、きっと
中根すあまの脳みその238
土砂降りの中自転車を漕いだせいで、水浸しになった財布。
そこに眠っていた1枚の1000円札が、力なく萎んでいる。
隔てる布の壁にまるで価値などないかのように張り付いて、それはそれは頼りない。
ほー、とため息をついて閉じる財布からは、小学校の校庭の砂利の匂いがした。
夜になって雨が上がった。
嘘のような晴天の夜空である。
その下を、がらがらと巨大な台車をひいて歩く。
職場では、毎日大量のゴミが出る
中根すあまの脳みその236
バイト先の古着屋がつぶれた。
文字通り、跡形もなく。
どちらかというと続いている状態の方が不思議なくらいの店ではあったが、携帯の画面の上の方から垂れ下がった緑色の通知ひとつで終わってしまう、その呆気なさに驚いた。
そういうわけで、私は新しい職場探しを余儀なくされた。
1ヶ月弱の職探しの末行き着いたのは、どうせ日常の大半をそこで過ごすのなら、非日常の中にいたいという私の願いをいい感じに手軽に叶えて
中根すあまの脳みその235
とある事情で学校の制服を着た。
自分が当時、実際に着ていたものではないのだが。
この格好をした今の自分が、どれだけの違和感を人に与えるのかを考える。
おそらくそれほど大きなものではない(と、信じたい)のだろうが、
それを着てしかるべき年齢の人間と並ぶときっと、その違和感は増幅し、強烈な印象を残すだろう。
輝かしい記憶ではなかったはずなのに、輝かしい記憶であったような気がする。
衣替えで久しぶりに見
中根すあまの脳みその234
よく利用する駅の構内にあるカフェが、セルフレジ形式になっていた。
店の外にレジがあり、そこで支払いをし、店内で注文したものをうけとるというシステム。
次の用事までかなり時間が空いてしまった、ある午後、セルフレジ形式に変わってからはじめてそのカフェを利用した。
レジは2台。
1台にお洒落なマダムの2人組。
もう1台に20代半ばくらいの男の人。
それぞれがタッチパネルを操作している。
その後ろで順番を
中根すあまの脳みその233
ほっぺの質量が日によって違う。
人はその要因を“むくみ”などと呼ぶらしいが、そのふざけた名前と図々しい態度が気に入らないので、私はそれを存在として認めていない。
ほっぺが増えた、減った、のほうがかわいくて良い。
私のほっぺのメカニズムの話をしよう。
今まで私は、何かやることがあったり、忙しかったりすると、休む時間やくつろげる時間が減り、それに伴いほっぺも増えていく、と認識していた。統計的に、ほっ
中根すあまの脳みその232
何も予定がない日の昼にひたすらに眠り続けてしまうのは、自分の力で無理やり動かすしかない現実の世界より、なにもしなくてもおかしな方へおかしな方へと進んでいく夢の世界の方が、過ごしていて楽だからだろう。
昼見る夢というのは、夜お行儀よく収まるベッドの中で見るものよりずっとおかしな世界観を誇るのだから尚更だ。
加えて夢の世界の中で私は、ここが夢だということを無意識のうちに理解していることが多いため、例え
中根すあまの脳みその231
写真を撮るという行為に意義を感じていなかった。
写真を撮るのは、SNSに投稿する予定があるものだけで良いと思っていた。
自分が活動をする人間として必要な最低限の写真以外を、アルバムに増やすつもりがあまりなかった。
学生時代、
文化祭も体育祭も卒業式も、
残されているのは、当時特に仲が良かった人とのツーショットと、取ってつけたようなクラスの集合写真だけ。
学校のイベントの写真は投稿できないからいら
中根すあまの脳みその230
ワイヤレスのイヤホンなど使いこなせないということを、もうさすがに分かりきっている私は、その便利なようで不便な文明の利器の存在を無視し、ため息が出るほどにシンプルで飾り気のない、携帯を買った時についてくる付属の白いイヤホンを何度も買い替えて使っている。
ワイヤレスのイヤホンはまず、充電するのを忘れる。
そして、酔っ払って行方が分からなくなる。
何故かいつも片方ずつ、行方をくらますのだ。
分かっている
中根すあまの脳みその229
酒が最強の防寒具だということを、
人類はもっと知った方がいい。
コートもマフラーも手袋もなにもかも馬鹿馬鹿しい。
酒を飲めばいいのだ。
だいたい酒などというものは、心の防寒具でもあるのだから、寒いと感じたら、それがどこであろうと、何であろうと、酒を飲めばいいのだ。
ある名曲では、
忘れてしまいたいことや、どうしようもない寂しさに包まれたときに、
男は、
酒を飲み
女は、
泪を見せる
と、歌っ