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読書感想┊︎花だより・みをつくし料理帖

みをつくし料理帖シリーズの完結からその後を描いた短編集。
去年のお盆休みに全巻一気読みしたのが懐かしい。
『花だより』だけ未読だったので、久々にみをつくしの温かい世界のなかに戻ってこられてうれしい。
物語のいいところは、姿を変えずにいつでもわたしの帰りを待っていてくれるところだ。またいちから読み返したい!

だが、料理が好きと言いながら、あの上達のなさはどうだろうか。付き合わされる者にとっては迷惑以外の何者でも無かろう

p90「涼風あり」より

まずいものを無理に食べさせられるのは嫌だけれども、好きだから上手くなければならない、ということは全くないよなぁ。
早帆が「これでも上達したのです」と言いながら、あれこれ料理について考えている姿はとても楽しそうで好ましい。
わたし自身、好きなことにたいして「十分に頑張れていないんじゃないか」とちくちく責める気持ちは常にあるんだけど。
責められると落ち込むし、楽しくなくなるから、早帆のように楽しんで押し切る気持ちがあってもいいのかもしれない!


もう長くはない、ということは誰の目にも明らかだったし、その心残りを少しでも減らすことが自身の使命だと、乙緒は思っていた。二人の間柄は通常の嫁姑というよりは、これまで培ってきたあらゆる英知を残そうとする者とそれを受け継ぐ者、という同士のような関係だった。

p101「涼風あり」より

伝統や文化の継承ってこうやって行われてきたのかな~と時代の一部を垣間見た気持ち。
こういう意識で人から教わることって、今の時代に生きていたら基本ないじゃないですか。個人の色が強すぎて。
伝えよう、受け取ろう、と互いの心の強さが印象的で、好きなシーンのひとつかもしれない。
「好きなシーン」という言葉が自分のなかから出てきて少し驚いている。


駒繋ぎの花のように健気で可憐な娘と恋をした男が、心を見せない能面の女を娶った。なんと酷いことだ、と乙緒は両の掌で顔を覆う。閉じた瞼から、じわじわと涙が滲み始めた。自身の涙にあるのは、姑を看取って以来だった。

p123

ここまで乙緒の気持ちを三つ引用したけど、わたしは乙緒が好きなんだろうな。気持ちを外に出さず、内に潜めている部分が自分と重なって親近感を持つんだと思う。
まあ、わたしはどんどん外に出していこうってやってるんだけど。
人生のテーマが解放なのかな、という感じ。

「始めて挑むことであっても、決して臆さず、一心に、丁寧に。そうした心持を、私は忘れていました。何時の間にか、臆病に、そして傲慢になっていたのです」

p286「月の船を漕ぐ」より

時には大切なことを見失って、間違った道を行ったり、途方に暮れることもあるけれど、そのたびに自分の芯となる部分に気付いて戻ってきたらいい。
ずっと平穏で変わらない毎日を繰り返せたらいいけれど、そうもいかないからね。


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