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インタビュアーの選び方~履歴・職歴を見る

これは発注側と受注側の両方を経験した私の持論ですが、キャリアにおいてマーケティングリサーチの仕事しか経験していない人と、営業や商品企画などマーケティングの現場を経験している人ではクライアントの状況理解に圧倒的な差があると思います。要は「現場」を知らないか、知っているかの差です。この差はつまりクライアントの業務、実務を知っているのか知らないのかの差であり、それはとどのつまり、クライアントのニーズが理解できるのか、できないのかの差になります。端的に言うとマーケティングリサーチでのキャリアが長いだけの人よりも、そのキャリアが短くてもよりも多様なキャリアを持つ人、特にマーケティング実務のキャリアがある人の方がインタビュアー、リサーチャーとして有能だということになります、。

クライアントから調査会社に「業界知識のある人をアサインしてほしい」という要望(実はクレーム)が多いことは先にお話ししましたがその真意を分析すると実は「僕の仕事を理解してよぉ」ということに他なりません。つまり本当は「業界知識」ではなく「業務知識」を求めているのだということになります。キャリアにおいてマーケティング実務を経験している人が望ましいというのはその裏返しです。

業務知識がありクライアントのニーズが理解できるということは、そのクライアントの業務に利用できる調査企画や分析ができるということです。少なくとも実務経験の無い人よりもある人の方がその確率が高いわけです。これは前回触れました「調査結果の利用法」が具体的に記述できるかできないかの違いになってくるわけです。それがあるのとないのでは、その調査が役に立つのか立たないのかの差を生じることになります。

インタビュースキルをどのように学んだのか?というのは重要な観点です。これは前回も述べましたように専門家、プロから「体系的」に学ぶ機会があったのか、無かったのかで調査のクオリティが変わってくるからです。私の経験では少なくとも通算で10日程度以上の集中的な教育、トレーニングを受けていないと、体系的なメソッドは身につけられないと思います。1日や数日の短期教育では不十分だということです。

それを補うのがOJTですが、少なくともインタビュー調査を専門とするメンターの指導を受けながら経験を積んでいる必要があると思います。「普段はアンケートをやってる人」の指導では率直に申し上げて不十分でしょう。

学校でマーケティングの勉強をしていたというのはベターですが決め手にはなりません。やはりお勉強はお勉強でしかなく、現場での実務経験には遥かに及びません。

インタビュー調査の原点は心理面接の応用なので、心理学、特に面接の勉強、トレーニングをしていた人は有利です。しかし心理面接とインタビュー調査が異なるのは対象者が治療などのために自ら面接を求めて来るのか、調査主体側が対象者に面接を求めるのかの点にあります。これは大きな違いであり、故に、面接の技法においてもそれが考慮される必要があると思われます。端的に言うと「別物」なので、やはり、その知識や経験だけでは不十分だということです。

この連載では意識マトリクス理論と共に「主体の分裂」や「メタ認知」について繰り返し触れてきました。そして「メタ認知能力」こそがリサーチャー、インタビュアーの能力の核心であると主張してきました。つまり、キャリアにおいてメタ認知能力が高まる経験をしている人が望ましいということになります。その判断基準となるのは、突飛かもしれませんが、「趣味・特技」です。

武道、スポーツ、演劇などである程度のレベルに達している人は自分のパフォーマンスを自分で観察、認識するという能力が高められています。即ち、パフォーマンスする自分とそれを観察する自分に自我を分裂させることができるということになります。これはメタ認知そのものです。私自身、元々が全日本レベルの試合経験がある馬術選手であったという経験を持っていますが、身の回りの優秀なインタビュアーは同様類似の経験を持っている人が多いと感じられます。その意味で「体育会採用」や「文武両道」というのはあながちデタラメとは言えず、むしろ重視されるポイントだと言えます。もちろん体力があるに越したことはありません(笑)

読書もインタビュアーとして好ましい趣味です。「作者の伝えたいこと」や「それを伝えたいと感じた背景」などに思いを馳せながらながら読むことは要は「作者のニーズ」を推測することに繋がります。また、小説の場合には文字からその情景や登場人物を思い浮かべることは脳梁のトレーニングになります。登場人物の感覚や心情に感情移入することは自我を分裂させ、その人物の身になるということですからこれもメタ認知能力の向上に繋がります。そのような読み方をするとそれは様々な登場人物と共にその体験を共有するということになります。即ち疑似体験なのですが、これは後述の生活体験の広さを代替します。読書による雑学的な知識が多いことも/Cの意識領域を拡大しますし、インタビューの結果としての提案においてはアイデア発想力がより高くなると言えます。その人がどんな本の読み方をしているのかによってその効果はそれぞれでしょうが、つまり基本的に読書はインタビュアーが必要な能力を高める作用があるということです。

職歴や経歴はバラエティに富んでいる方が望ましいと言えます。いわば平穏無事な人生よりも波乱万丈の人生の人の方が望ましいのですが、それは、より多彩な経験をしていることにより/C領域が広くなっており、生活者をより広い領域で理解できると考えられるからです。同じ意味で生活体験も広い方が望ましく、家事をやらない人よりもやる人、未婚の人より結婚経験のある人、趣味の少ない人よりも多い人が望ましく、また単純に考えますと年齢、ライフステージが下よりも上の人のほうが有利だと言えます。反面、とっさの反応速度や思考の自由さは年齢の若い人の方が有利だと思われますから、そこはバランスでしょう。

これらのポイントを満たした上で、同じ条件なら経験グループ数の多い方が良い、という程度にしか私は経験グループ数を見ていません。逆説的ですが、インタビューというのは人に話を聞くといういわば誰でもできることなので、そもそもその「聴く」能力自体を重視するべきなのであって、聴き方が下手なのにその数を競ってもナンセンスということです。また業界知識よりも業務知識という観点から、過去の経験案件においては業界や商品カテゴリーの観点ではなく、業務の観点で確認するようにしています。例えば、業界やカテゴリーは違っても「新商品開発」のテーマの場合には過去、同様の業務課題でのインタビューの実施経験を問うわけです。

業界知識についてはメタ認知によるセルフコントロールができる人、端的に言うと知っていても知らない「芝居」ができる人ならばあった方が有利だと思いますが、あることがアスキングに繋がるという観点ではむしろ無い方がよいと言えます。

以上、世間、業界の常識から言うとかなり異端な見方ですがそれらは意識マトリクス理論によって根拠付けられるものであり、経験的にもそうであったものです。

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