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インタビュアーのトレーニング③~脳梁の能力=イメージと言語の相互転換

前々回にサラッと「想像力」に触れました。これをより具体的に表現すると「体験に関する対象者の限られた言語表現からその実体をイメージできる力」ということになります。しかしインタビューの結果、結論はそのイメージから、元の限られた言語表現を補って再び言語化されて報告される必要があります。

つまり、イメージと言語を行ったり来たりしながら相互に転換する能力が必要だということになります。これは左脳と右脳の間で相互に情報をやり取りするということです。この機能を担っているのは両脳を連結する脳梁という部分です。つまりインタビュアーはこの脳梁の能力に秀でている必要があるということになります。

この考え方は以前に「脳梁マーケティング」としてご紹介しました。商品開発者や表現クリエイターなどのマーケティングの実務者に実際に役立つ情報になるためには抽象的な言語やあいまいなイメージであってはならず、必ず、具体的かつ構造的に言語表現されている必要があります。


「脳梁マーケティング」のイメージ=「魔法の鏡」

この能力は基本的に、何かを観察しそれを文章化することと、文章を読んでそれをイメージ化することで養われると考えています。

例えば、何かの情景を見て、それを詩や俳句にしてみるとか、何かの体験を随筆にまとめてみるといったことが役立ちます。

また、小説などを読んでその情景を思い浮かべてみるということも役立つでしょう。それを絵にしてみるということは大変良いトレーニングです。絵心が無くても最近はパソコンでネットから集めた画像を使ってコラージュを作ってみるということができます。また、仕事の中で何かの言語や数値の情報を図表化することも大変良いトレーニングだと思います。

しかし、自分ではそれが転換でき、表現できていると思っても、ひとりよがりのこともあるわけです。

師匠の梅澤先生はグループインタビューカレッジにおいて「矩形ゲーム」というゲームをトレーニングに取り入れておられました。

これは、出題側が任意に描いた「矩形」の組み合わせ模様を言葉で回答側に伝え、回答側はその言葉から元に描かれた模様を推測し、再現して描くというゲームです。これは正に言語とイメージの相互転換そのものです。出題側はイメージから言語への転換を行い、回答側は言語からイメージへの転換を行うわけです。

「矩形ゲーム」

このゲームによって、実際に言語がイメージにつながるような表現がされていたのか?あるいは、言語からイメージされたことが発言者の表現したかったことなのか?ということが検証され、脳梁の能力がわかり、繰り返すことによってその能力が鍛えられていくわけです。

これも以前にご紹介したかと思いますが、
「コロナ禍でマスクをするようになって、口元よりも目じりの皺が気になるようになった」
という発言があったとします。この言葉から脳梁の能力を使って情景を思い浮かべると、マスクをして手洗いに行ったとき、ふと鏡を見ると口元ではなく目元の方に視線が行くような情景が思い浮かびます。すると、実は気になるのは目じりの皺だけでなく、目の下や瞳、まつ毛、眉毛、額、眉間、前髪など、目の周りがすべて含まれていることが想像されます。そこでたまたまこの発言者は目じりの皺を挙げたわけですが、生活の中では目の周りの他の部分が気になる場合も多いだろうということが言えるわけです。しかし言葉だけに囚われているとこのような想像や推測(インサイト)はできません。すなわち市場機会を見逃すことになるわけです。

余談ですが、ここで脳梁を使うことが動機づけられるのはそもそも、市場機会を「発見」しようとする態度に端を発します。一方、リスクを避けようとするだけの後ろ向きの態度であると「そんなことは言わなかった」ということになりがちだと思われます。マーケティングやイノベーションを目的としたインタビューに携わる場合、そのような「発見的態度」であることは非常に重要な要素となるということになります。


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