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インタビュー調査の常識・都市伝説のウソを暴く~「集中力の低下」〜「アイスブレイク」のウソや「オンラインインタビュー」のウソ~そして最大の都市伝説とは?

最初の「沈黙」問題で「建前発言」の要因については説明済みですので、この構造図についての説明は今回が最後となります。

今回取り上げるのは「集中力の低下」です。

インタビュー調査では「対象者のリラックス」ということはよく言われても「集中力」が話題になることは余りありません。しかしインタビュー調査において「集中力」というのは非常に重要な要素です。対象者は限られた時間の中で求められていることや問いかけられていることを理解し、グループの場合には他の人の話もよく聴きながら、自分の人生や日頃の生活を振り返り思い出してそれを具体的に話すという極めて複雑な作業が求められているからです。

経験から言えるのは、インタビュー調査において必要な「リラックス」とは「弛緩」=「たるみ」ではなく、「アスリートのリラックス」=「緩解(緊張緩和、ときほぐれ、ゆるみ)による自由度の高さ(撓やかさ)と高い集中力の両立の状態」だということです。従って「アイスブレイク」などと称するジョーク話や世間話をして達成されるものではありません。それこそ都市伝説です。それに替わって必要なのは「タスクと成果の共有」です。インタビューの場でのタスクと成果が対象者との間で共有されることにより、何を話せばよいのか、どうふるまえばよいのかについて不安を感じている対象者は、求められていることを理解してリラックスでき、同時にそのタスクと成果に集中できるわけです。これは「緊張」のそもそもの原因を考えると当然至極のことなのですが、そこに思いを致さないので「笑い話や世間話」をして「アイスブレイク」すればリラックスするという思い違いがされているわけです。しかしインタビューのタスクや成果を共有せずにお笑いをとっても緊張の原因は除去されない一方、「さして真剣になる必要もない」という誤解が生まれ、「弛緩」を生むことになりかねない、ということです。この概念を表現したのが下図です。 

そして「タスクと成果の共有」はこの図※が示すように「お作法」の「趣旨説明」によって達成されます。

※連載がここまで来て、この因果関係を示す線が一本抜けていることに気づきました。今回以外の部分では大勢に影響はないので今までの図の差し替えはしませんが、今回からその線を一本加えたバージョンに変更しています。失礼いたしました。

集中力が落ちる要因としては他に「指名による一問一答」があります。これはどういうことかと言うと、アスキングを行った場合「質問に答えること」が暗黙のタスクですから自分の発言のターン以外は他の人の時間(アイドルタイム)であり、その間自分が話をしたり聞いたりしなければならない意識は低いので集中力が下がるということです。特に人数が多い場合はそのアイドルタイムが長くなるわけですから集中力低下は促進されてしまうでしょう。

一方リスニングの場合には「話し合い」がタスクですから自分が話をしていない間でも他の人の話を聞いている必要があり、集中力が落ちないということです。集中力を落とすアイドルタイムが無いという言い方もできます。また、生活観点の話題が提示された自由な話し合いであることにより、建前発言が出にくく出席者の興味関心が維持されることもその効果をサポートします。

集団において「他の人が話しているので自分には関係ない」と前者のように集中力が落ちることを心理学用語ては「社会的手抜き」と呼び、後者のように「他の人の話にも耳を傾けていないと不熱心だと思われてしまう」と集中力が高まったり維持されたりすることを「社会的促進」と呼びます。この「手抜きと促進の往復ビンタ」でアスキングとリスニングの間では大きな集中力の差が発生すると考えられます。

さらにそこに「建前発言の発生」が加わると「飽き」「退屈」をもたらすためにさらに集中力を落とす効果があると考えられます。

タテマエ発言はアスキングによって発生しますからその効果が加わることでアスキングとリスニングの間の集中力の差は時間経過と共にさらに増幅していくことになり、最終的にインタビューが維持できないレベルに低下すると考えられます。この概念を示したのが下図です。

仮説的にこの概念を発見したのはコロナ禍においてインタビュー調査がオンライン化せざるを得なくなったことがキッカケでした。私の場合、過去の経験でもコロナ禍に行った実験でも特に何の問題も感じずにオンライングループインタビューもオンラインデプスインタビューも実施することができていたのですが、その当時、調査業界では「オンラインインタビュー調査が上手くできない」という声が続出していました。特にグループインタビューでは対象者の集中力が落ちて長時間の実査に耐えられないといったことや、人数が多いと上手くいかないということが言われていました。

それで業界団体は「グループインタビューは最大4人まで、時間はグループの場合は最長90分まで(オフラインの場合は一般に120分がスタンダード)、デプスの場合は60分まで」(色々あるようですが、同じく私の場合は90分がスタンダード)を推奨としたのです。しかし、私にはそのような問題は起きなかったわけですからその理由を考えるとアスキングとリスニングの違い、ということに思い至りました。そこでインタビューそのものについて改めて深く検討考察した結果をこの連載でご紹介しているわけですが、オンライン化してインタビューが上手く行かなくなったのはオンライン化自体が主要な原因ではなく、実はオフラインの時から上手く行ってなかったものが誤魔化しが効かなくなっただけではないか?ということに気付かされたわけです。

つまり、「オンライン化で上手くいかなくなった」というのもウソ、都市伝説、あるいは「業界の不都合な真実」の隠蔽だということになります。

しかしオンラインで多くのインタビュアーが、とくにグルインが上手くいかないというのは事実です。それはアスキングによる上記の集中力低下がさらにオンラインにおける各対象者とインタビュアー間の「空間の分断」によって増幅してしまうというのが結論です。誤魔化しが効かなくなる原因がそこにあるということです。それは「維持不可能」なレベルに至る時間が短くなるということです。

詳しくは下図で分析していますが、例えば、他の対象者やインタビュアーからの「死角」ができることで「逃げ場」ができ、アイドルタイムで集中力が低下した場合にはペットや子供と遊んだり、他の画面を開いてみたりといった「内職」を始めてしまうということが起きます(環境管理の阻害)。それがさらに連鎖反応を起こし集中力低下を増幅するのです。他にも「インタビュアーや他の出席者の反応がわかりにくい」(感覚の阻害)といった問題もありますが、この数年の経験を通して最も大きな要因はこの「環境管理の阻害」(逃げ場)問題だと考えています。

しかしそもそもがリスニングの場合は同じ「空間の分断」の条件下でも上手くできるわけですからその問題は副次的なものでしかないと言えるわけです。問題の根源はアスキングにあります。そして今までにもさんざんに説明してきた通り、リスニングでは諸問題が起きず、さらに具体化や構造化、情報量などの面で大きなメリットがあるわけですからアスキングのインタビューをやる意味が「スキルが無いから」以外のどこにあるのか?というのが私の結論です。

ゴーマンかましてよろしければ
「インタビュー調査をアスキングで行う事こそが最大のウソ、都市伝説、不都合な真実」であると申し上げておきたい思います。



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