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ミツバチ⑩情報伝達(フェロモンとダンス)

「ミツバチをよく見てそれに倣(なら)え」スロベニアの格言


これまで、ミツバチの驚くべき社会性についてお話ししてきましたが、ミツバチたちはお互いどのように連絡しあっているのでしょうか。人間の社会だって社会人として、また、組織を円滑に運営するために「ほうれんそう」(報告、連絡、相談)が大事だって教わりますよね。

ミツバチの場合、コロニー(群)で営まれるほぼ全ての生活に関する情報を”フェロモン”によって伝えます。フェロモンとは動物の体内で作られる化合物で、同じ種の仲間の反応を引き出す働きがあります。ミツバチにはなんと50種類以上のフェロモンがあると言われています。

どんな時にどんなフェロモンを出すのか、代表的なものをいくつかご紹介します。

❶女王バチの状態を伝える

女王バチ大顎腺フェロモンと言います。女王の側近たちがまず受け取り、それをハチからハチへと渡していきます。女王バチが元気で卵をガンガン産めるのかどうかが伝えられます。このフェロモンによって、働きバチの卵巣の発達が抑えられます。女王バチが歳をとるにつれて分泌が減るので、それが合図となって新しい女王を育てるようになったり、分蜂の準備が進められたりします。分蜂というのは女王がコロニーから出て他の場所にコロニーを作ることですが、詳しくは別の回でお話しします。

❷巣の中で、次にどんな仕事をしたら良いかを伝える

蜂児フェロモンと言って、幼虫が分泌します。数種類あるのですが一つ目は、女王バチが産んだ卵と、何かの間違いで働きバチが産んでしまった卵を識別し、働きバチ産んだ卵を除去することを促します。

二つ目は、仕事の切り替えです。以前の「働きバチ」の回でお話しましたが、働きバチは生後の日齢によって仕事内容が変わっていきます。そろそろ別の仕事に移るよう促します。ということは、受け取る側の日齢によってフェロモンが引き出す行動が違うということになります。例えば、若い育児バチには子供達(幼虫)に与える餌を作らせ、年長のハチには花粉をたくさん集めさせたりします。

完璧な管理体制です!すごいのはそれだけではありません。巣の中で不測の事態や混乱が起こった場合、例えば若い働きバチが少なすぎるなどの人手(ハチ手)不足が起きたりすると、年長ハチが仕事の切り替えを遅らせて必要な部署に手が回るよう調節するのもフェロモンの働きです。柔軟に対処するわけです。

なんだか私たちの体が分泌するホルモンに似ているなあと思います。お相手を見つけるためにお肌や髪をツヤツヤにしたり、子供が生まれたらお乳を出したり、体の機能のバランスを調節しますよね。もちろんフェロモンとホルモンは全く違うものです。

フェロモンの話に戻します。その他、幼虫は蛹になる準備が整うと、フェロモンで合図をして巣房にフタをかぶせるように促します。巣の中の仕事においては幼虫が中央管制塔だったのですね。

❸警報発令!

警報フェロモンとは、コロニーが攻撃されるなど危険と判断した時に”門番バチ”が出すフェロモンのことです。多くの門番バチを巣の入り口に集めて、警戒態勢に入ります。あるハチが敵を刺すとこれもまた警報フェロモンを放出して「敵はここだよ!」と誘導し、仲間の働きバチにも刺すように働きかけます。なので、もし私たちが刺されたら、慌ててその場で防護服などを脱いだりするのはもってのほか。ハチたちが集まってきて、さらに刺されてしまいます。

❹ミツの場所を教える

リクルートフェロモンと言います。このフェロモン自体がミツの場所を教えるわけではなく、「私たちと一緒に採餌(さいじ)の仕事をしませんか?」と求人をかけているのです。このフェロモンは、採餌バチが俗にいう”尻振りダンス”をするときに一緒に放出されます。

➕尻振りダンス

採餌バチは、巣に戻った時にこの「尻振りダンス」と呼ばれている動きをして、他のハチたちに餌場がどの方向にどのくらい離れたところにあるのかを伝えます。腹部を細かく振るわせながら、お尻をくねくね左右に振り、8の字を描くように動き回ります。とっても可愛いのです!

でも、ミツバチの巣は板のように二次元の世界(巣の回もご覧ください)。どうやって外の世界のことを伝えるのでしょうか。まず、お尻を振りながら進む方向は太陽からの角度。巣板の上に向かう場合は太陽の方向、巣板の下に向かう場合は太陽の反対方向を指します。(図)

ミツバチは太陽がはっきりと出ている晴れた日だけ採餌するわけではありません。人間には見えない、太陽光の進行方向(偏光)を感じ取ることができるので、曇りの日でも太陽を基準にできるのです。

餌場までの距離はおどりの長さ(お尻を振るのが1秒ならだいたい1kmだそうです)、餌の質は動きの激しさで表します。もし巣のすぐ近くに餌がある場合は、くるくると円形のダンスになります。その場合は餌場の匂いもたどって探します。

しかし巣の中はたいがい暗いですし、ハチたちはダンスを俯瞰して見ることはできません。動きを感じたり、音を聞いたりして情報を受け取っているのです。非常に高い能力ですね。

今回はミツバチの情報伝達についてお話しました。さて、次回はなんのお話にしようかな。

参考文献:ミツバチ 飼育・生産の実態と蜜源植物/角田公次







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