マガジンのカバー画像

芸術と音楽

12
運営しているクリエイター

記事一覧

習い事、お稽古事の心得

「稽古とは 一より習い十を知り 十よりかへる もとのその一」 by千利休(茶人) 稽古というのは、初めて一を習う時と、十まで習い元の一に戻って再び一を習う時とでは、人の心は全く変わっているものです。十まで習ったから「これで良い」と思った人の進歩はそれで止まってしまい、その真意をつかむことはできない、との教えです。 お習字をしていた頃に教えていただいた言葉です。本当にその通りだと思います。 何かを自分のものにしたい時、いくら言葉で説明されたことを頭で理解できたと思っても、本

自分には”個性”がないと思っている人へ

「冬の夜の雨を聞くのが好きですが、雨の音を聞いても、はじめはさほど感じない。それを何度もじっと聞いておりますと、雨を聞くことのよさがわかってくる。」  by良寛 ”個性”とはなんでしょう。自我が強いということでしょうか、奇抜なアイデアを出せることでしょうか。そうではありません。個性というものは、もっと深いところから来るものなのです。 個性は、本来その土地その土地で自然にできてくるものです。環境を生かし、物を生かす。そのことを忘れて、自分が考えたことや、自分が作り出そうとい

芸術なんて、人のなんの役に立つんですか、という疑問を持つ人へ

「スミレはただスミレのように咲けばいい。そのことが春の野にどのような影響があろうとなかろうと、スミレの知ったことではない。私に関して言えば、数学を学ぶ喜びを食べて生きている、ただそれだけのことだ。」 by岡潔(数学者) ”芸術の話なのに、数学者?”と思われましたか?私が芸術に関する研究をしながらたどり着いたのは、明治生まれの天才数学者、岡潔(おか きよし)でした。 彼は言いました。「数学とは、自らの情緒を外に表現する学問芸術の一つ。」 彼のことをほんの少しご紹介します。京

一部の天才だけが芸術家を名乗っていいと思っている人へ

「私がこの芸術の域に達するまでに、どれだけの努力を重ねているかを知ったら、芸術家になりたいとは誰も思わないだろう。」 byミケランジェロ この言葉にはなんだかホッとさせられました。”あの”ミケランジェロ”も人間だったの?! と。私と「同じ」とは言いません。けれども、こんなにも気持ちの距離を縮めてくれるなんて、なんかミケランジェロっていい人なのかも、と思ってしまいます。 ミケランジェロは、15C~16C イタリア、ルネサンスの芸術家です。あの、ダヴィデ像で有名ですが、素晴ら

楽譜や音符を読むのが大嫌いな人へ

「音楽とは、言葉にはできないが沈黙したままではいられないことを表現するものである。」byヴィクトル・ユゴー かっこよくピアノを弾く姿には大変憧れるけど、特にクラシック音楽を演奏するために立ちはだかるのは、楽譜を読まなくてはいけないこと!譜読みが好きだから音楽をやっている、という変態でなければ、それは大変な作業なのです。 音楽の始まりは、神様に気持ちを捧げたり、豊穣や収穫に感謝したり、みんなの気持ちを一つにまとめるためにできたもの。一度演奏すると途端に消えてなくなってしまう

音楽家に必要な条件とは何かと問う人へ

「いかに多くの素晴らしい声に恵まれた生徒が、勤勉、忍耐、音楽性、強固な神経等に欠けているために成功できなかったことか。」 byロッシーニ(作曲家) 結論から言ってしまえば、”前提条件などはない” のですが、とは言っても同じ時間や労力を費やしても、その実力には差が出てしまうのも事実です。ロッシーニもこの言葉に加えて、優れた歌手の条件は「一に声、二に声、三に声!」とも言っています。 人間の能力というのは、①生まれ、遺伝子によるものと、②育ち、環境によるものの大きく二つあります

スケール(音階)練習が嫌いな人へ

「ウジェーヌ・イザイ(ヴァイオリニスト、作曲家)は音階を弾くことができた。その音階は、それまでに聞いたことのないほど、崇高なものだった。」 by J・ギンゴールド(イザイの弟子) 音楽に長くたずさわる人なら、この言葉の意味がよくお分かりになるでしょう。でも多くの人は、楽器の習い事の中の”やらされる”練習の一つという認識かもしれませんね。どちらかと言えば嫌いな人の方が多いでしょうか。 簡単に説明するとスケールというのは、”ドレミファソラシド”のこと。ピアノの鍵盤で言うと、”

音楽と脳①音楽は認識のオーケストラ

「人生の惨めさから抜け出す慰めは二つある。音楽と猫だ。」 byアルベルト・シュヴァイツァー 皆さんは音楽とはどのように関わっていますか?リラックスした時間に気に入った曲を聴きますか?カラオケで歌ったり、楽器を演奏したりもしますか?音楽のクライマックスにゾクゾクっと鳥肌が立ったことはありますか? そんな時、私たちの脳内では何が起こっているのでしょうか。音楽を処理する専用の回路があるんでしょうか。音楽と脳の働きについての研究は比較的新しい分野だそうですが、いろんなことがわか

音楽と脳②脳はどこで音楽を聴いているのか

「私たちの音楽的な感性にとって、音を本当に聴かずに漠然と聞いてしまうことほど致命的なものはない。」byトバイアス・マテイ(ピアニスト) 前回の「音楽と脳①」では、聞こえてくる音そのものと脳の処理についてお話ししました。下記にリンクがありますので、よろしければご覧ください。今回は、”音楽”を脳のどの領域が”聴いて”いるのかについてのお話です。 音程(音の周波数)や音量の知覚など、音楽を認識する上での最初の処理は左右両半球の一次聴覚野と、二次聴覚野でなされます。二次聴覚野は、

音楽と脳③

「熟練の技がなければ、霊感などは風にそよぐ葦(あし)にすぎない。」 by ヨハネス・ブラームス 前回の音楽と脳②では、音楽を聴いた時の脳の処理領域についてお話ししました。今回は、脳領域と訓練についてのお話です。 ハノーバー音楽演劇大学の研究所では、音楽的トレーニングや、「聴音養成訓練」を受けた時の脳内の変化を研究しています。まずは脳電図研究室での実験をご紹介します。 32人の音大生に140の長和音、短和音、増和音、減和音をバラバラの順序で2秒間ずつ聴かせた。各和音と和音

音楽①Music

「音楽の創造は変化と進歩の果てしないプロセスです。完璧な演奏に到達することは決してありませんが、それでもあらゆる瞬間に知識と洞察力が深まり、情熱が高まるのです。」byジャクリーヌ・デュ・プレ”Music"の語源にあたる言葉は、古代ギリシャ神話まで遡ります。 神話には「ムーサ(ムーサイ)」と呼ばれる女神が登場します。英語、フランス語では「ミューズ」です。 9人姉妹の彼女たちは音楽、詩、演劇、舞踏、語りなどの文芸を司りました。神話には音楽の競技の審判として登場したり、セイレーン

音楽②Harmony

「この世の内なる調和を信ずることなくしては、いかなる科学もあり得ない。」byアインシュタイン音楽の三大要素と言われるものに、”リズム”、”メロディー”、”ハーモニー”があります。ハーモニーは「和音」、「調和」と訳されます。和音とは、二つ以上の異なる高さの音の重なりのこと。では調和とはなんでしょう。 現在我が国では、ギリシャ語「ハルモニア」を語源とする西洋諸語(Harmonyなど)の和訳として使われることも多くあります。ではハルモニアとは? ハルモニアはギリシャ神話に登場す