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小説『Hope Man』

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昭和の真っ只中、出会いと別れを経験して大人になっゆく『龍一』の生き様を描いた物語。
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小説『Hope Man』第31話 納得

『暫く休みなさい、親父さんにも言っておくから』 学校でのことを正直に母親に話したところ、思いもよらぬ言葉が帰ってきた。その夜、父親に呼ばれて学校でのことを母親に話した同じ内容でもう一度話した。思えば面と向かって話をしたのは初めてかもしれない、いつもなら話を聞かずにぶっ飛ばす父親が、黙って聞いたり頷いては意見を述べてくれたりした。学校での状況は孤立して辛かったが、家での状況が一変したのは龍一にとって少し嬉しかったのは本音だ。 もう一つ嬉しかったのは、学校から連絡があったにも

小説『Hope Man』第30話 前だけ向いて歩くんだ

龍一が目を覚ましたのは3日後だった。 玄関で倒れたまま目を覚まさず、両親がベッドに運んで様子を見ると、その夜高熱が出たので夜間救急病院に運ぶと「右の肋骨にヒビが入っている」との事だった。身体の痛みもあり、受けた恐怖と父親に信じてもらえなかった事にショックを受け、身も心も崩壊したのだろう。 『あれ?俺・・・いてぇ』 起き上がろうとした龍一を激痛が襲った。ヒビと聞くと折れていないのだからさほど重症ではない印象を受けるが、呼吸をしても痛いのが実際のヒビによる痛みだった、3日目

小説『Hope Man』第29話 星空

翌朝、目が覚めると、身体中が痛かった。 得に痛かったのは左の頬。 昨夜、帰宅した父親に顔の傷を見られ、問い詰められ、ちゃんと説明したにもかかわらず喧嘩したと言う事でぶっ飛ばされた時の一撃のせいだ。あんなに死ぬ思いをして戦ったと言うのに一方的に叱られ、頭に来た龍一は父親に食ってかかったのだが、返り討ちにあったのだった。 『いつか必ずぶっ飛ばしてやる』 最強の父親を倒すことが龍一の子供の頃からの目標。 正直学校は行きたくなかった、でも仲間と昨日の話を出来ると思えば自然と

小説『Hope Man』第28話 おっさん

大乱闘を勝利で飾って意気揚々と歩く4人…とは言ったものの、どう見ても勝利者には程遠い姿だった。満身創痍を絵に描いたような4人は、各々が肩を組みあって支え合っていなければ立って入れない程のダメージだった。だが、強いで有名だった湯中の金獅子を潰したのだから、みんな口元は笑っていた。 その沈黙を破ったのはタカヒロ。 『しっかしよぉ、俺ぁもう終わったと思ってたぜ』 すぐさま3人が、待っていたかのように話し出す。 『俺も、死んだと思ったね』 『やべぇ奴らばっかだもんな、眉毛ね

小説『Hope Man』第27話 金獅子

金髪リーゼント『湯中の金獅子』こと鬼塚 亮(おにづか りょう)が右手を高く上げると、仲間の9人が一気に龍一・タカヒロ・中村・花田に襲い掛かった。そもそもヤンキーではなく、ちょっと悪い程度の4人…いや、タカヒロは少しヤンキー寄りではあったが、この時代は正直『絡んだもん勝ち』みたいなところがあったので、相手が真面目だろうとヤンキーだろうと喧嘩が始まればみんな同じだった。 考えも無しに突っ込んで来る奴に対しては基本的にかわしながら打ち込むカウンターが有効である、大概は飛び蹴りや飛

小説『Hope Man』第26話 空港にて

目覚ましで龍一が目覚めたのは午前5時。 花田の家で待ち合わせは午前6時だ、この日は先日のプロレスに出場した選手たちが帰る日なので、空港で待ち伏せしてサインをねだり、写真を撮ろうという策略だった。 朝に弱い龍一はゆっくりを身体を起こして少しボーッとする。 一点を見つめて目の焦点が合うのを待つのが龍一流。 徐々にボケていた焦点が合い、我に返る。 こうなった龍一はまるで時間に余裕が無いサラリーマンの朝のように、歯を磨きながらズボンを履き、顔を洗ったら着替えつつパンを噛む。

小説『Hope Man』第25話 試合開始

『ありがとう!』 『おう!楽しんでこいよ!』 前歯の無いタクシー運転手に見送られ、龍一、タカヒロ、花田、中村の順で車を降りた。 『お釣りはいいから!』とタカヒロが言う。 『お釣りっておめだぢ!30円でねぇが!ふふ、サキューな!』 ププッ! クラクションを小気味よく2度連打すると前歯の無い運転手は去って行った。降りた場所は市民体育館の真ん前で、既に長蛇の列が出来ていたのだった。しかしその列は当日券を買い求める為の列、龍一達は前売り券を購入しているので、並ぶ必要が無か

小説『Hope Man』第24話 インドの猛虎

ブルーザー・ブロディに怒られてホテルの外に出た4人。 興奮するタカヒロ・中村・花田がギャーギャーと騒いでいる。 『殺されると思ったぜ!』 『やべぇな!テレビで見るよりでけぇし!』 『ひげすげぇ』 そんな3人の横をタクシーがすりぬけてホテルの前で止まった。 全員で振り向いたが、ホテルから出てきたのは若手のレスラー。 3人は『なんだぁ』と言う顔でまたブロディの話しになった。 私だけ真ん前のタクシーが気になり後ろの座席を見ると、乗っていたのはスタン・ハンセンだった。

小説『Hope Man』第23話 キング・コング

昼休みに龍一のクラスでプロレスを観に行くメンバーが集結した。 龍一・タカヒロ・中村・花田の4人だ。 話す内容は勿論今日の事。 タカヒロが言う。 『今日さ、学校終わったらソッコーな!』 『どこに?』と中村が身を乗り出して聞く。 その中村が邪魔で、押しのけながら花田が『どこに?』と聞く。 龍一はその様子にたじたじしながらこう感じていた。 一人じゃないってこういう事なのかな、こういう事が楽しいって事なのかな。 友達・・・なのかなこの3人は・・・ 俺はどうして行ったらいいん

小説『Hope Man』第22話 全日本プロレスが来る

ある日の放課後の事だった、龍一が外靴に履き替えて玄関を出ようとすると、『桜坂』と声をかける生徒がいた、タカヒロだった。 タカヒロとは喧嘩してそれっきりだったので少し気まずかったのだが、龍一は『よう・・・』と静かに右手を上げた。 『一緒に帰らねぇか?たまにはさ・・・』 タカヒロが照れくさそうに言った、とは言え物凄い勇気だったと思う、喧嘩の場合、こじれてしまっては声をかけにくくなってしまう、そうしているうちに疎遠になるものである。 そこにストップをかけるべく踏み出したこと

小説『Hope Man』第21話 組手

『あの・・・今度!』 焦りつつも龍一は靖子にまた会いたい、会いましょう、そんな意味合いの言葉をかけた。 『龍一君』 靖子が龍一の背中にぶつけた言葉は届くことなく、逃げるように龍一はその場を立ち去った。 正しくは逃げるように・・ではなく逃げたのだが、それはいち早くその場所から存在そのものを消す為である。 湯川原中学校との闘いに参加したふりして逃げると言う龍一の策。 決して喧嘩が弱い部類ではない龍一だったが、意味のない喧嘩はしないのが彼の中でのポリシーだった。 が故

小説『Hope Man』第20話 不良の詩

中学二年も後半に入ると、進路について周りが話し始める。 そんな事はまだまだ先の事のように考えていた龍一だったが、ふと自分も考えているふりをしてみるが5分も持たずに、頭の中は漫画の物語でいっぱいになる。 この頃の龍一の夢は『漫画家』だった。 でもインターネットも普及しておらず、漫画家になるにはどうしたらいいのかもわからなかった。 そのため、漫画家先生がよく出している『漫画家になれる本』 みたいなものを次々と読み漁るものの、答えは結局有名漫画家のアシスタントをしながら自

小説『Hope Man』第19話 塚原君

タカヒロとすっかり疎遠になってしまった龍一。 あれから何度かクラスに顔を出して龍一にちょっかいを出していたが、 龍一は心を許すことはなかったので、いつしかタカヒロは来なくなった。 やっている事は身勝手だ、そんなことは龍一本人がよくわかっている、 だが、龍一の過去にだけは何人たりとも侵入を許すことが出来なかった。 過去をさらけ出すくらいなら友達なんかいらない、そんな思いだった。 『どうせずっと独りだったし』 そんな思いも時折自分の中で『強がり』と言う事を認識しては

小説『Hope Man』第18話 土管の中で

中学2年になった龍一。 クラス替えが行われたが、人を信用できない龍一にとっては誰と一緒のクラスになろうとしったこっちゃなかった。 ただ、タカヒロとはクラスが離れたのは残念だったのだが。 見た感じでは敵になりそうな人間はいなそうだったが、調子乗りは多いようで、調子乗りが調子乗りを煽って皆が調子に乗る様な、龍一にとってはまぁまぁ面倒くさいクラスっぽかったのが見て取れた。 相変わらず龍一は一人。 クラスで一人、別にそれで良かった、その方が楽だったし。 しかし、龍一の美術