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【ノンネイティブの流儀4】【英国政治に見る「男と女の微妙な関係」】

【写真】東京・JR四ツ谷駅前にて(撮影・飯竹恒一)

なにも男女の機微をここで語ろうというのではありません。それはそれで悩ましい永遠のテーマですが、ここでの問題は英語。代名詞の性別です。

少し前になりますが、次のような英文ニュースの一節を目にしました。

Any resignation leaves open the question of who would succeed her and what direction they would take the fractured party in.

昨年10月、英国史上最短の在任期間で退陣に追い込まれたトラス首相(当時)の後継人事をめぐる説明部分で、辞任表明直前のものです。her は保守党の党首だったトラス氏を指しているのはお分かりいただけると思いますが、それではその後の they は誰を指しているのでしょうか?

実はこれ、いわゆる「単数のthey」です。保守党の新党首が男性か女性か分からない段階で、he or she としても良いところですが、最近の英語は、これを they で済ます傾向にあります。人を指す中性の三人称単数代名調が英語にないための苦肉の策で、厳密にいえば英文法でいう「数の一致」に反しています。

注目すべきは、多様なジェンダーを受け入れる時代の流れを反映し、単数の they が使われるケースがいっそう増えている点です。言語学者らでつくる「アメリカ方言学会」(American Dialect Society)は単数の they について、2009年までの10年間で最も特筆すべき英語の言葉(Word of the decade)に選んでいます。

カナダの主要紙「トロント・スター」は2013年に初めて、単数の they の問題と本格的に向き合うようになり、紆余曲折の末、読み手にきちんと説明することを条件に容認を決めたといいます。取材対象のシンガーソングライターが、自身のジェンダーを「女性でも、男性でもなく、その中間」(not as a woman, not as a man, but somewhere in between)だと主張し、they と呼ばれるよう希望したのが契機だったそうです。AP通信はこうした they について、「限定的に受け入れる」(acceptable in limited cases)としています。

冒頭の事例はそこまで踏み込んだジェンダーの問題を含んでいませんが、女性のトラス氏の後継を決める保守党の党首選には当初、女性のモーダント(Mordaunt)氏も名乗りを上げていました。女性初の国防相や国際開発相を務めた有力政治家です。

ノンネイティブとしては悩ましいところですが、一線の英語メディアの状況を見ても、英文法を書き換えるほどの段階ではないようです。当面は、色々なニュアンスの単数の they を柔軟に受け止められるよう心づもりをしたうえで、自分で発信する時は he or she でしのぐのが無難だと思っています。

(主宰講師・飯竹恒一)

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