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「買(こ)うての幸い、売っての幸せ」~高田郁「あきない世傳 金と銀」より~

こんにちは、きくちきよみと申します。
税理士です。

表題の通り、高田郁さんの「あきない世傳(せいでん) 金と銀」というシリーズ小説を最終巻(スピンオフである特別巻・第15巻)まで読み切りましたので、今日は、このシリーズについて感じたことを書きます。特にネタバレをするつもりはありませんが、少しもヒントを得たくない方は、ここでこのまま閉じて頂けますと幸いです。

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「あきない世傳(せいでん) 金と銀」について

この小説は2016年に始まったシリーズで、主人公は、貧しい学者の娘・幸(さち)。舞台は、江戸時代。幸(さち)は、その類まれな聡明さと商才を見込まれて14歳で呉服屋の主人に嫁ぎますが、これは彼女のその後の数奇な運命と生き様を描いたストーリーです。

この小説のすごいところは、フィクションであるにも関わらず、今まで接してきた中小企業の経営者の方々を彷彿とさせる言動がいくつもあり、非常にリアリティがあることです。著者である高田郁さんの小説はほとんどすべて読んでいますが、この方の小説の登場人物はいつも生き生きとしていて、命を与えられて勝手に動いているように感じられます。

経営者のことば

会社を経営していると、いつも順風満帆とは限りません。どちらかというと、何度も危機に見舞われ、不安が尽きない立場です。

私自身は仕事で経営者の方のお話を伺うだけですが、「本当に生きるか死ぬかのギリギリを渡ってきたのだな」と感じられる言葉を聞くことがあります。当然ながら、会社の外側から関わってきた自分なぞには知る由もない、大波・荒波が何度もあったことでしょう。

しかも、そのようなギリギリの状態で、経営者は、自社だけが儲けることを考えているわけではありませんそれでは事業が継続しないことを知っているからです。

家族と従業員を必死に守りながら、ある経営者は未来のために何ができるかを考え、ある経営者は今困っている人たちのために何ができるかを考え、それを事業としようとしています。災害があれば、たとえ自分が被災者の立場であったとしても、自分に何ができるかを考え抜きます。

経理さんが、その会社で働く理由

会社の経理さんは直接的に事業に関わるわけではないので、その会社で働き続ける理由は人それぞれでしょう。

あくまで自分の経験上の認識ではありますが、経理さんが働き続ける理由は、「給料が良い・福利厚生が良い・待遇が良い」というよりも、「その会社の事業が好き・経営者が信用できる」ということの方が多い(=長続きする)ように思います。

もちろん「経営方針は関係なく、単に環境が良いから働く」という意見を否定しているわけではありませんが、その会社で働く経理さんの資質は、その会社の経営者の資質を大きく反映していることが多いと感じています。

「買(こ)うての幸い、売っての幸せ」

この小説の中で度々出てくるキーワードですが、商売の基本は「買(こ)うての幸い、売っての幸せ」です。買い手が満足し、売り手も儲かる。Win-Winの関係です。(私の語彙ではこのレベルの表現になっていまい申し訳ありませんが、より深い意味があります。詳しくは、全15巻を読んでください。)

この考え方は、単なるきれいごとではなく、事業の継続性の基本になる考え方でしょう。

自分たちが儲けるだけの商いは継続しないものの、いつの時代も求められる商いの在り方は、100年以上にわたって継続する企業の基本かもしれません。

私はこれからも、「買(こ)うての幸い、売っての幸せ」を考え抜く企業と経営者を支えていきたいと考えています。