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【英語うんちく】なぜporkはpig meatと言わないの?

「なんでpigの肉のことをporkとわざわざ別の言い方をするの?pig meatでいいじゃないの?」。

って中学生の頃に思いましたよね?私は思いました。一体何の意味があるのかと。豚の肉だから豚肉でいいじゃない。覚えないといけない単語を増やさないでほしい。牛の肉だって同じですよ。ややこしい事この上ない。

でもこれ、私がイギリスに行ってから知った事なんですが、イギリスの複雑な歴史に関係してるんですよね。

ブリテン島侵略の歴史

ご存知の方も多いと思いますが、イギリスは正式には「グレートブリテン及び北アイルランド連合王国」と言います。英語では「United Kingdom of Great Britain and Northern Ireland」です。面倒ですよね。イギリス人も「UK」って言います。自国民にさえ長すぎて省略される国、イギリス。

国名にある「グレートブリテン」というのは国土である「ブリテン島」のことで、元々ここには紀元前からケルト系の人たちが住んでいました。そこへローマ人がやって来てブリテン島の広い範囲を征服します。カエサルの時代から紀元45年ごろのことですね。それでテルマエロマエばりの浴場を作ったりします。下の写真はイギリスのBATHというところから発掘された古代ローマ時代の浴場施設です。私も2回くらい行ったことあります。

その後5世紀頃までローマ人の支配下にあったのですが、ローマが東国との争いに忙しくなったらしくブリテン島から撤退します。

やったー、これでまた元の生活に戻れるー。と思った矢先に今後はアングル人サクソン人が攻めて来たんですね。アングル人サクソン人はどちらもゲルマン系の民族です。だからアングロ・サクソンっていうのは、ローマの後にイギリスを征服したゲルマン系の人たちのことを言うんですね。たまにテレビとかで白人全般のことをアングロ・サクソンと言う人がいますが、それは間違いなので真似しないでね。

それで、

アングロ人の地 = Angla land = Angland = England

となってイングランドになったのです。こうしてアングル人の言葉をベースにイングリッシュ=英語が発展していきます。元々ブリテン島にいたケルト系の人たちはゲルマン系の人々と交わり、一部は辺境へ追いやられて、ウェールズ人スコットランド人アイルランド人としてケルトの文化を継承していくことになります。

ブリテン島を制圧したアングロ・サクソンはその後安泰だったかというとそんなことはなく、8世紀には北欧からバイキングが攻めて来て、11世紀にはノルマン人が攻めて来て、ついにはノルマン人に征服されていまします。これをノルマン・コンクエストと言います。

このノルマン人が今回の主役です。ノルマン人とはフランスノルマンディー地方で栄えたゲルマン系の民族です。イギリスに攻め込んで来た頃にはノルマンディー公国を建設しており、その勢力でイギリスにノルマン朝を建設しました。

この時、初めてノルマン・フレンチ=フランス語がイギリスに入って来ます。

フランス語系の支配者とドイツ語系の被支配者

こうして、辺境に追いやられたケルト人、支配されるゲルマン人、支配するノルマン人という構図が出来上がり、これは今でも続いています。現在のイギリス王室はこのノルマン朝が起源なので、雑に言えばイギリス王家のみなさんは元はフランス人ということになります。

ここで2つの言語、ゲルマン系の言語とノルマン系の言語が混ざり合います(今回はケルト系の言語の話は省略します)。そして一部はこの時の支配・非支配構造を残しています。その代表がpigporkなのです。

pigは英語の元となったサクソン語のpiggeが語源で、porkは後で入って来たノルマン・フレンチのporcが語源です。被支配者=育てる人、支配者=食べる人だったので、動物の方にサクソン語の呼び方が残り食肉の方にノルマン・フレンチの呼び方が残ったわけです。これ以外にもサクソン系とノルマン系の言葉があって、同じ意味でもendはサクソン系でfinishはノルマン系、startはサクソン系でcommenceはノルマン系、askはサクソン系でenquireはノルマン系。「buy goods」と言うとサクソン的で「purchase merchandise」と言うとノルマン的です。英文の契約書を読んだことのある人はノルマン系の単語が多く使われていることに気づくと思いますが、今でもノルマン系の言葉は格式高い文書で使用されています。

ノルマン系の言葉を使ってみよう

言葉なんて意味が通じればいいのかもしれませんが、こういったバリエーションが英語に深みを与えているのです。みなさんもノルマン系の単語を使うように意識すると格式ある文章になりますよ。

to see a doctor(ゲルマン)医者に行く、的なニュアンス
to consult a doctor(ノルマン)診察してもらいに医者にかかる、的なニュアンス

とかですね。その他の単語は下記に載っています。


余談

私がイギリスに行く前はイギリス人は単一民族なんだと思っていました。「英国紳士」なんて言いますし、確立されたアイデンティティがあるものと思っていました。ところが、行って見てびっくり、イギリス民族というのは存在せず、先述したケルト系、ゲルマン系だけでなく、インド系、アフリカ系、カリブ系、中華系の人たちも沢山住んでいる、多民族国家だったのでした。大学時代に1年間過ごしたアメリカと比べるとインド系が多くラテン系が少ない感じですが、間違いなく多民族国家です。結局こういう多様性を受け入れられる国が強いのかなぁ、なんておもいました。


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