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Episode 071 「こんな骨折の仕方は、おそらく世界で一人」

放課後になると、アデレードハイスクール(Episode022参照)の目と鼻の先に位置するマクドナルドによく寄っては、ハンバーガーなどを食べる事が日課になっていた。

よく一緒に行ったメンバーは、マイケル、ゾーイ(マイケルの彼女)、アドナン、ステファン、ポール(のちに登場するポールとは別の、ポール。苗字は確か、チンチャーラだった)、イヴァン、サリモン、ローリーなどだった。

尚、アドナンは、確か11年生のタイミングで転校してきたのだった。出身はボスニアで、妹(イルマと言って、妹と同級生だった)と母親と三人でオーストラリアに引っ越(移民)してきたのだ。亡くなった彼の父親は(のちに写真を見せてもらった事があったが)非常にハンサムな人(そして、写真で見る限りでは、アドナンはお父さんに似ていた)であったと記憶する。

彼は(具体的にいつ、かは憶えていないが)ボスニアからドイツに引っ越をし、ドイツにも住んでいたことがあったことから、ボスニア語、ドイツ語、英語のトライリンガルであった。勉強も得意で、大学ではコンピューターサイエンスを学び、卒業後は金融の道へと進んだ。アデレードで仕事を何年かした後にメルボルンに転勤になった。現在(2024年)もメルボルンに住んでいる。彼は非常にサッカーが上手かった。

ヨーロッパ人としては珍しく(という印象がある)、背は低め(おそらく私と同じ170cmくらい)だったのだが、俊足であり、またボールコントロールも上手く、パワーもあった。彼もハイスクールのサッカーチームに所属していた。

尚、彼のトレードマーク(学校に置いての普段のいでたち)は、紺のNYヤンキースのベースボールキャップだった。何度か、彼の家にも遊びに行ったことがある。彼のお母さんが、私が日本人だと分かると、見せたいものがあると言い、何かを取りに部屋の奥に行った。手にして戻って来たのは、日本の芸者についての本だった。つまり、歴史的観点から日本の芸者を説明した本だった。「非常に素晴らしい本だった」と彼女は、本をパラパラとめくりながら説明した。

余談になるが、ハイスクールのサッカーチームに、ギリシャ人のエマニュエルという男がいた。とある月曜日、彼は包帯を手に巻いた状態で登校してきた。指切りげんまん、をするような形(しかし指切りげんまんとは違い、薬指も小指と一緒に固定され、包帯がグルグルを巻かれていた)で包帯に包まれた片手がそこにはあった(左右どちらの手であったかは憶えていない)。

いったい何があったのかと訊いた所、どうやら週末のサッカーの(ハイスクールのチームではなく、地元のクラブチームでの)試合で怪我をし、骨折をしてしまった、との事だった。

それを聞いて、私が想像したのは、走っている際に転んで、(地面への)手のつき方が悪く骨折してしまったのか、または、ボールが手に直撃し骨折したのか(ただ、ゴールキーパーでない場合、その確率は高くない)という事だったのだが、どうやらそのどちらでもなかったらしい。

何が起こったのかというと、つまりこういう事である。サッカーの試合なので、もちろん常に動き回っており、時にダッシュをする必要がある場面も多い。その際、スピードに乗って走るには、もちろんだが勢い良く腕が前後に振れる。その勢いで、手(小指)が、自らが履いている短パンの裾に引っかかり、骨折した、との事である。この様な理由から骨折をした人を見るのは、過去にも(おそらく将来的にも)誰一人として会った事がない。おそらく、世界で一人だけではなかろうか。そんな、エマニュエル君であった。

そんなエマニュエル君。

帰る方向が違った、ということもありマクドナルドには来なかったが、授業などでよく一緒になったAhmed(アハメッド)という(ボスニア人)友達とも仲が良かった。彼は非常に大人しく、温厚な性格の持ち主であった。しかし、一度、昼休みに彼がキレた事があった。

体育館の二階に、卓球をするスペースがあり、そこに卓球台が3、4台並んでいた。恐らく、サッカーを休み時間にやり始める前だったので、9年生の頃だと記憶する。ポール(先ほどの、マクドナルドに一緒に行っていたポール・チンチャーラではない)という、オーストラリア人の、いかにも問題児な男がいた。彼は、ハイスクールに入学当時(8年生=中学2年生)から身長は180cmを越していた。

その日はたまたま(何故か)彼が卓球をやっており、(理由は全く憶えていないが)アハメッドに言い掛かりをする形でちょっかいを出してきた。しかし、最初の内は、アハメッドはそんな彼を無視していたのだが、あまりにもしつこく絡んできたのだ。そして、ポールがアハメッドに手を出した瞬間、ついに仏のアハメッドがキレ、ポールに殴りかかったのだ。

周りは唖然とした。アハメッドがキレるという光景は、ガンジーまたはマザーテレサが暴れ出すくらい、絶対にない事、という理解にあった中での出来事であった為、みんなが唖然とした。そして、アハメッドが問題児ポールを負かしたのであった(翌日、ポールは学年の上のヤンキーを連れてきて、我々が卓球をしていた場所に再度来たのだ。そして、その先輩(アジア人のヤンキー)はアハメッドに向かって、「次、ポールに触ったらぶっとばすぞ」的な発言を一言残し、その場を去って行った。つまり、ポールがこのヤンキーの先輩に泣きついたのだ。最も格好の悪い(あるいは、卑怯な)やり方である)。

酔っ払いトリオ。左からローリー、私、アドナン。日本での再会を果たした際の一枚。
確か、2019年頃。
酔っ払いトリオ。左から私、アドナン、ローリー。日本での再会を再度果たした際の一枚。
これは、昨年(2023年)。

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