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短編小説 「ベッドから散歩」


ベッドから外を覗くと青白い空が広がっていた。すこし、窓を開けてみたら、湿気がこもったぬるい風が吹いてきた。散歩日和だと思うけど、窓を閉め、分厚い黒いカーテンを閉めた。


膝の上のiPhone13の真っ暗な画面を触れると、朽ちたデススターが現れた。YouTubeを開くとトップに「まずは散歩から」とサムネイルが表示された。「いゃあ、散歩はしないよ」と、興味なしと表示を消した。暇をつぶすのは簡単、適当に読みたい漫画や観たいアニメを検索すればすぐ出てくる、それを楽しめばいい。

違法アップロードされたアニメを観ながら、違法アップロードサイトで最新の漫画を読んでいた。ストリーミングーーそんなの知らない、だってお金がないから。作者の生活ーーそんなの知らない、だって知らない人だから。

アニメが終わった続きが気になる、だけど、続きがなかった。ぽっかり12話だけ抜けていた、いくら探してもそこだけがなかった。きっと明日になれば誰かがアップロードしてくれる。

お腹がうなりをあげた。キッチンの冷凍庫から冷凍の明太子パスタを取り出して電子レンジで温めた。アニメを観ながらパスタをすすった。小さい画面だけど、テレビを観るよりかはマシだった。部屋に戻ってベッドに寝転んで、アニメを観ながら漫画を読んだ。

ママに聞かれたことがある、「アニメを観ながら、漫画を読むなんてそれで頭に残るの?」と。
「うん」と、うなずいて答えた。

お金は払わない。ママの言うとおり、アニメと漫画を同時に聴いたり観たりしてるから、話なんてざっくりとしか頭に残ってない。だから、観てないのと同じ。たとえお金があったとしても払って観ようなんて思わない。誰もお店に入ってBGMにお金なんて払わない。

カーテンの隙間から空が見えた。さっきと同じ青白い空だった。

アニメの続きもない、漫画も読み終えた。何か新しいことをしたい何か刺激がほしい、何をすればいいのかわからない。ふと、スマホの画面に映った自身のぼんやりとした表情に気づいた。鏡のように反射する画面に映る自分は、まるで別人のように感じた。

「散歩でもしようかな」と小さな声で呟いた。

ベッドから起き上がり、適当に服を選んで着替えた。スニーカーを履いて、玄関に向かう。

玄関を開けると、外の空気が一気に体に染み渡った。湿気を含んだ風が頬を撫で、少し涼しく感じた。道を歩き始めると、久しぶりの景色が少し違って見えた気がした。青白い空を見上げながら、何か新しい発見があるかもしれないと期待を胸に、歩みを進めた。





時間を割いてくれてありがとうございました。

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