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短編小説 「宇宙人の恋愛」

リビングのソファーに麻美が座っていた。黒髪ロングに前髪ぱっつん、母親譲りの優しいたれ目をした彼女は、柔道着に茶色ローブを身につけ、手にスポックのフィギュアを持ち、母親が構えるビデオカメラに向かって微笑んでいた。家の中に柔らかな光が差し込み、リビングは温かな雰囲気に包まれていた。

「誕生日おめでとう。何歳になった?」母親の声がカメラの向こうから響く。

「25」麻美は少し照れながらも、はっきりと答えた。視線は左に向いていた。壁に掛けられた家族写真が、彼女の幼い頃からの成長を感じさせた。

「おめでとう。それじゃあ、25歳になった今、なにがしたい?」母親は微笑んで続けた。

麻美の視線が上を向き、肩をすくめた。「恋愛がしたい」と、声を弾ませ笑いながら答えた。笑顔は、まるで太陽のようにリビングを照らしていた。

「どうして恋愛がしたいの?」

「みんなしてるし、私も誰かに愛されたいし、愛したいから」トーンがすこし下がるも、表情は笑顔だった。ただ、依然として視線は定まらずにいた。

リビングの時計が静かに時を刻む中、母親はさらに質問を続けた。「今まで恋愛の経験は?」

麻美は肩を小さくすくめ首を傾げた。「高校生の時に好きな人はいたけど、デートとかはしたことはない」

「初耳。理想的な人は?」

麻美は目を輝かせながら、理想の相手について語り始めた。「優しくて、話をよく聞いてくれる人かな。それに、一緒にいて楽しい人がいいな。あと、スターウォーズとスター・トレックを語れる人」

母親はビデオカメラ越しにうなずいていた。「それは素敵ね。それじゃあ、今まで恋愛ができなかった理由はなに?」

麻美は少し考え込み、次第に表情を引き締めた。「うん、たぶん私が変な人だからかな」

「具体的には?」母親は優しく尋ねた。

「私服はジェダイだし、口にすることは『フォーを見て』とか『興味ない』とかだからかな。それと人の話を聞くのは嫌いだからかな」麻美は苦笑いを浮かべながら答えた。「私にいい人は現れると思う?」表情が消え視線が左下に向いた。

母親が麻美の隣に座り、手を握った。「そうね、今のままでは難しいから、まずは人の話を聞けるようになろう」

麻美は母親の言葉に少し安心したように微笑み、視線を再びカメラに向けた。「ありがとう、ママ。頑張る」

母親はカメラを持ち上げ停止ボタンを押した。

「また視線があっちこっちに向いていた」母親は麻美の頭を優しく撫でた。

麻美はスポックのフィギュアを母親に向けながら話した。「どうしてもカメラを見ていられない」スポックの右腕があがった。「どうしたらママやパパ、ほかの人たちと同じように人の目を見てられるようになる?」左腕もあがった。

「人だと思わないようにしたら?スポックの目は見られるでしょ?」母親はスポックの右手を握った。「目の前にいる人は宇宙人、人じゃないそう思ったら。相手もあなたのことを宇宙人だと思ってるから平気よ」

麻美はスポックのフィギュアを見つめ、しばらく黙って考え込んだ。「そうね、試してみる。スポックみたいに冷静に、相手を宇宙人だと思ってみる」麻美はうなずいた。

「あなたも、相手もみんな宇宙人。緊張しなくても平気」母親は微笑んだ。

「みんな宇宙人」麻美はつぶやいた。「それじゃあ、私は宇宙人と恋愛することになるの?」その瞳は輝いていた。

「そうかもしれないね」母親はスポックのフィギュアを麻美に向けた。

「宇宙人の話ならいくらでも聞ける」麻美は笑顔が浮かべた。「そっか、男の人の話も友達の話も宇宙人の話だと思えばいいのか」と、バンザイした。

「はじめて、あなたが役にたったわ」と、母親はスポックに頭を指で撫でた。




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